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失敗してからが人生は本番〜『Bread & Butter』のメッセージ〜

芦原妃名子さんが亡くなられたという。もう今の連載の続きも、新しい作品も読めないなんて…。

どの作品も好きだけど、とくに『Bread & Batter』は、コロナ禍で精神的な健康を崩して、つらい時期に励ましてもらった作品の一つだった。不調により本も読めなくなったが、マンガだけは読むことができた時期だった。そんな時期にfacebookに書いた紹介記事を、再構成して載せておきます。

もっとはやく、伝えられたら良かった。あなたの作品に救われた一人です、と。

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2020年に完結した『Bread & Butter』は、人生になんらか失敗した大人たちの漫画。

物語は小学校教員の主人公の女性が学級崩壊を起こし、退職するところから始まる。そしてふと出会った美味しいパン屋さんで元気を取り戻し、その店主に「結婚しませんか?」といきなり切り出す…

と書くとベタな恋愛マンガのようですが(一応ラブコメですし)、そんなことはなくて、「いい年」した大人たちのしょっぱい人生物語。根っからの悪人は誰もいないのだけど、それでも生きていたら誰かを傷つけてしまう。それも、かなり厳しい感じにえぐって。それは、主人公で言えば学級崩壊を招いた児童との関係。主人公の彼氏で言えば、長い間同棲して付き合っていたのに、別れてしまった元カノとの関係。

そして物語では中盤以降に、主人公と彼氏の二人の人生が、ふたりとも1回、大きく変化します。それによって二人の関係性もやや危ういものに。それでも、一度は人生に「失敗」した二人はそのときの経験を踏まえ、簡単には「だいじな関係」を手放すことはしません。妥協するところは妥協し、しかし妥協しないところは妥協せず、新たな関係性を作ろうとします。

そして主人公カップル以外も多くの登場人物たちも、人生になんらか失敗している人達。店を潰してしまった人、家族との関係をこじらせている人…。他人を傷つけられても、そして傷つけても、どちらも生きていかなければいけない。人生は続く。

結局、そんなことは人生誰にでもあって、それでも人生それで終わりなわけではない。むしろそこから、許し、許されて人は生きていく。結局人生とはそういうもの、というメッセージを本作品は発しています。

でも、そうやって人生、および関係性の再構築をするのはそう簡単ではない。どうすればいいのか。それは日々の「Bread & Batter」=生業=日常を、地味に積み重ねていくしかない。

私は
パンをこねながら考える
発酵するのを待ちながら
丁寧に
"私達の事”を
雑に扱いすぎると失敗するし
過保護に 手をかけ過ぎてもダメになる
レシピと ある程度のマニュアルは存在するけれど
その日 どんなパンが焼き上がるかなんて
蓋を開けてみないと分からない
それでも
だから 毎日 パンを焼く

芦原妃名子 (著) 『Bread&Butter』第10巻

全10巻。エンディングを、初読のときは「これで終わり?」と思ったけど、読み返すと、作者は最初からこれを想定していたのかとも思わせる台詞、モノローグで終わります。長い人生、失敗しても再構築できる。そのためにぼちぼち、こつこつ、やっていくしかない。

そういう励ましをこの漫画から受け取ってコロナ禍を乗り切ることができました。ありがとうございました。そしてさようなら。まだ受け止められませんが,どうぞ安らかにお眠り下さい。

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