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どうやったら男性はトイレで手を洗うようになるのか? 〜先行研究から考えてみる〜

男子トイレに入るといつも気になるのが、きちんと手を洗う人がほとんどいないこと。体感では、3分の1はちゃんと洗うが、3分の1はちょちょっと水を手につけて髪の毛でそれを拭いている。そして残り3分の1は洗わずに出ていく。

この「トイレで手を洗わない男」問題、世界的に共通しているらしい。以下の、2021年に発表された、米国、イタリア、スペイン、サウジアラビア、インドの成人2,509人を対象国際横断的研究によると、コロナ禍において手を洗うことは、地方在住(β = -0.08, p = .001)、高齢(β = 0.07, p < .001)、女性であること(β = 0.07, p = .001)、そして教育水準の高さ(β = 0.07, p = .017)と有意に関連していたとのことだった。つまり都市住民ほど、若いほど、男性ほど、教育水準低いほど手を洗わない、という研究結果だったわけです。

なぜ、洗わないのか。以下の2020年に発表された、ポーランドの中学・高校生の男女を対象(男性814人、女性1509人)とした調査結果によれば、手洗いをしない理由として、男子は「する必要がない」「する気がしない」「する時間がない」「忘れてしまう」など様々な理由を挙げる人が多く(p < 0.0001)、女子は副作用(肌荒れなど)を理由に挙げる人が多かった(p = 0.0278)とのこと。男子生徒のほうがおバカな理由(言い訳)をいろいろあげているのが、なんだか悲しい。

じゃあ、どうやったら、そんな男性たちがトイレで手を洗うようになるのだろうか。いろいろな実験結果が今までに報告されている。最近の研究だと、新型コロナウイルス感染拡大防止に結びつけた研究が多いのだけれど、そうした緊急時に手洗いが徹底されるようになるか、というのはおいておいて、通常時にどういう働きかけ(インターベンション)をしたら手を洗うようになるのかを見ておきたい。

2009年のアメリカの研究だが、この研究だと、

高速道路のサービスステーションのトイレで、いろいろなメッセージを表示させて、どれが効果的だったか調べたらしい。約200,000回分のトイレ使用データを収集した結果、女性では、知識活性化メッセージ(人々が既に知っていることを思い出させる、または知っていることの重要性を確信させる)が最も効果的であり、男性では、嫌悪感(「手についたものを石鹸で洗い流すか、後で食べるか」みたいな)が最も効果的で、石鹸の使用量が9.8%増加した(P=.001)とのこと。社会規範(「 隣の人は石けんで洗っていますか?」など)や社会的地位に基づくメッセージ(「くだらない人間になるな。石鹸を使え」など)は、男女ともに効果的であったとのこと。

つまりまとめると、男性と女性ではトイレで手を洗わない理由が異なっており、それぞれに異なった働きかけが必要、ということのようだ。

しかしとにかく、男性はトイレで手を洗わない。なかなか洗うようにならない。たとえばこちらは、同じようにアメリカの、男子大学生を対象として、規範的メッセージによって手洗いを促進しようとしたが、失敗した(手洗い増加に至らなかった)という研究。若い人ほど手を洗わない、という研究もあるので、学生相手はなかなか難しそう。

最近はやりの「ナッジ」で、すぐなんとかなるんじゃね?という研究を見てみた。ナッジとは、行動経済学的な知見に基づいて、人の行動を無意識に(好ましい方向に)コントロールしてしまえるというもの。

対照実験のサンプルでは、もともと男性の40%、女性の66%が手を洗っていた。介入実験を2種類やって、ひとつは効果なしで、もう一つは効果あったが、手洗い率の上昇は、男性で7ポイント、女性で15ポイント上昇とのこと。やっぱり男性の方が、もともと低いうえに、上げにくいんだな。

いろいろがんばってみても、男性のトイレ手洗い率を上昇させるのは、至極困難な取り組みであることが理解できます。

ちなみに、医者などの高度に衛生管理が求められる専門職種になると、仕事ではきちんと手を洗う人が男性でも増えるらしい。このへんもジェンダー的に男性らしいと言うか、なんと言うか、ですね。おしまい。


(おまけ。筆者の本です!)


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