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【ショートショート】ファイヤーフォーメーションラーメン

 窓の外はとうに黒い深夜一時過ぎ。ドラマの一気見を嗜む俺達。テーブルの上のグラスは外側で水滴を滴らせるも、中身は空。並んでいたチーズも綺麗になくなり、役目を終えた皿は画面の光を鈍く反射させている。
 画面の向こうでは仕事での失敗に悩んでいた主人公が、涙を流しながら屋台のラーメンを啜っていた。そしてそれを見て隣の彼女の腹が、ぐうーっと一鳴き。

「ラーメンすっごいおいしそう」
「だろうな。腹鳴ってるし」
「いちいち言うな」

 口を尖らせた彼女に脇腹を小突かれ、「いてぇー」と感情の伴わない声を上げる。「棒読み過ぎ」と笑った彼女がちらりと時計を見た。壁でちっちっちっと秒針を鳴らすそれは、「この時間は罪だぞ」と訴えるも、腹の声にしか耳を傾けていない彼女には届かない。リモコンのボタンを押し、ドラマを一時停止した彼女がソファーから立ち上がった。「ラーメン食べよう!」と。
 こうなった時の彼女は止められない。空になったグラスと皿を手に、ぺたぺたとキッチンへ早足。その背を追いかけて俺もキッチンに向かえば、グラスと皿をシンクに置いた彼女は棚からインスタントラーメンを二袋取り出した。

「陽ちゃんも食べるでしょ?」
「もち」

 鍋に水を入れコンロで火にかける。沸騰したらささっと麺を入れ茹で、その間にどんぶりを二つ用意。封を切ったスープの粉末を入れてから、冷蔵庫をチェック。割引で買った焼き豚の切り落としを取り出して彼女の見せると、「ヤバイ。攻撃力高過ぎる」と目を輝かせた。

「この時間にチャーシュー付きは攻撃力高過ぎるよ」
「どんくらい高い?」
「一番から蝦名・オースティン・筒香・牧・宮崎・佐野の打線くらい攻撃力高い」

 重量打線過ぎると喜ぶ彼女がどんぶりに麺の茹で汁を少し注ぐ。粉末を溶かしてから麺を入れ、ふわっと麺をスープに泳がせたら上から焼き豚。だがこれだけでは終わらない。箸を用意した彼女に、「まだ重量打線が完成してねぇぞ」と言って待ったをかけ、冷蔵庫からタッパーを取り出した。
 タイミング良く余っていた煮卵をそっとどんぶりに合流させて、これで深夜の重量打線ラーメンの完成だ。

「ほら、先発ピッチャー颯も追加してやろう」
「ファイヤーフォーメーション過ぎる~!」



深夜のラーメンって何であんなにおいしいんだろうなあ……。
そして颯プロ初ホームランおめでとう~!!!



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