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【ショートショート】底の味

 曇り空の朝。日曜日、気まぐれでやってくるたまの早起き。ベッドから起き上がり、普段は食べない朝食の準備をしながら、普段は見ない午前のテレビを見る。別段面白くもないが、たまにしか見ない新鮮さが逆に刺激的だ。

 ふあーっと大きく欠伸をひとつキッチンに解き放ち、トースターでこんがりサロン帰り姿になった食パンを皿に乗せる。二枚の皿に一枚ずつの食パン。厚みはこだわりの四枚切り。
 半熟に焼き上がった目玉焼きもひとつずつ。切れ目も入れずに焼かれたウインナーは、俺が三本で彼女が二本。冷蔵庫で余っていたポテトサラダと、申し訳程度のレタスも添えてテーブルへ。
 そしてケトルで沸かしたお湯を、インスタントコーヒーが待機するマグカップに注ぐ。さあいざ朝食と思ったが、ケトルに余っているお湯が妙に多い。彼女はいつもほぼぴったりの量の水しか入れないのにと、彼女の様子を確認する。かさかさと音を立てていたのは、彼女の手で開封されるカップスープ。

「これもう賞味期限近いからさ、食べちゃおっか」
「なるほー」
「コーンとかぼちゃ、どっちがいい?」
「コーン」
「りょー」

 いつどんなノリで買ったのかも思い出せない、賞味期限間近のカップスープが二個。蓋を剥がしてカップ内にある、企業の血の滲む努力で導き出された、ここがおいしいの最適解線までお湯を注いだ。ケトルの中身はほぼ空になり、やはり俺の抱いた違和感は正しかったのだと納得をする。急いでカップに突っ込んだスプーンでスープを十秒掻き混ぜ、ようやくテーブルへ。
 いただきますと手を合わせ、まずは食パンを一齧り。表面のさっくり具合は完璧。中のふんわりもっちり具合も完璧。これがあるから四枚切りはやめられないと舌鼓を打ち、ウインナーにフォークを突き立てる。目の前の彼女は、食パンを一齧りしてからすぐにスープにいったようだ。「かぼちゃがきく~」と独特の感想を述べている。
 そしてカップの底からすくったスープを見つめ、ふにゃりと口元を緩ませた。

「この、『しっかり混ぜたはずなのに何故か底に残ってる溶けきってないスープの粉!』が一番おいしい~!」
「たまに出てくるその偏食ほんと何なの」
「えー、味が凝縮されてて超濃ーくておいしいんだよー?」
「はいはい。いいからちゃんと混ぜて食べな」

 時折顔を出す彼女の偏食に思わず笑いつつ、スープに手を伸ばす。スプーンを上げると、しっかりと混ぜたはずの底から溶けきっていない粉末。食べてみろと言わんばかりの彼女の視線に再度笑って、ぱくり。きちんと粉末を溶かしたスープの味はまさに最適解と言えるものだが、この塊はジャンキーさを感じさせてくる。なるほど、これはこれで確かにうまい。
 「意外といける」と感想を述べて笑い合った頃、テレビでは天気予報士が夏のお知らせ。

「台風一号発生だって」
「マジかよ」
「もう夏だねー」



あの「しっかり混ぜたはずなのに何故か底に残ってる溶けきってないスープの粉」って、何であんなにうめぇんだ……。
あれが好き過ぎていっそちゃんと溶かさないまである。

食パンは絶対に四枚切り派。



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