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吸血鬼尾神高志の場合

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物語のタネ その九『吸血鬼尾神高志の場合#39』

物語のタネ その九『吸血鬼尾神高志の場合#39』

僕が掴んでいたゾンビの体がブルっと震えた。
と思うと、ゆっくり踵を返して渋谷駅の方に向かい出した。

周りを見ると、他のゾンビも同様にスクランブル交差点を渡り、駅に吸い込まれて行く。

「終わったな」

尾神さんがふっと息を吐きながらつぶやいた。
え?
僕は尾神さんの方を振り向く。

「ゾンビたちがどこに行くのか、それは会長しかわからないけどな」

夕暮れが迫り、これからますますハロウィンが盛り上

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物語のタネ その九『吸血鬼尾神高志の場合#38』

物語のタネ その九『吸血鬼尾神高志の場合#38』

「あら?どうしたのかしら?」

それまで、地獄の底から響いて来るような深く低い声で話していたボーイが、急にドラキュラのような口調、ちょっとオネエな声色になっている・・・。

「ふふ、ついに満腹。アタシの血がアンタの血と混ざり合ったのね」
「どういうことよ?」
「ハッキングよ」
「ハッキング⁈」
「そう」
「なんなのよ⁈それ」
「アンタ、1,500年も眠っていたから知らないだろうけど。アンタが眠って

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物語のタネ その九『吸血鬼尾神高志の場合#37』

物語のタネ その九『吸血鬼尾神高志の場合#37』

渋谷の街角―――

100人のゾンビの体にドラキュラ会長の血が注入される。
それを見て周りの仮装した女子たちが再び上げる「キャー💕」という歓声は無視して、僕たちは先ほど村田さんが届けてくれた血を更に注入する。

一方、ボーイの精神世界―――

「よう、ボーイ」
「こんにちは、ボーイ」
「久しぶりだな、ボーイ」



次々と新たなドラキュラが出現していた。
「ふん、数で勝負か?」
鼻で笑うボ

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物語のタネ その九『吸血鬼尾神高志の場合#36』

物語のタネ その九『吸血鬼尾神高志の場合#36』

ドラキュラの身体を全て食べ尽くしたボーイ。
その場に残っているのは、ドラキュラの持っていたステッキだけ。

「これで邪魔者はいなくなった・・・」

ボーイがステッキを拾い上げる。

「これからは俺たちゾンビの世界だ」

そう言うと遠くに向かってステッキを投げ捨てた。

コーン、コーン、コツコツコツコツッッッ・・・

ステッキの転がる音が響く。

「ふん」

コツコツコツ

「よく転がるステッキだな

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物語のタネ その九『吸血鬼尾神高志の場合#35』

物語のタネ その九『吸血鬼尾神高志の場合#35』

「人類はな、もう疲れたんだよ。自分たちで決めて生きていくのに。ドラキュラ、お前にはそれが分からんか?」

「・・・」

「解放だよ、これは。2000年前、イエスが十字架に掛けられることで全ての人々の罪を背負い解放したように」

黙り込むドラキュラ。
沈黙の時間が流れる。

やがて、絞り出すような声で
「・・・それは違う」

「何?」
「アンタが眠っている1,500年間、アタシは人類と一緒に生きて来

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物語のタネ その九『吸血鬼尾神高志の場合#34』

物語のタネ その九『吸血鬼尾神高志の場合#34』

ボーイの意識世界に血のネットワークでアクセスしたドラキュラ。
今、二人は1,500年ぶりに再会した。

「俺を消す?」
「そうよ、人類を守る為にね」
「人類?おいおい、ヴァンパイアを守る為だろ、本音は。お前達は人間の血が無くなったら生きていけないからな」
「勿論それはあるわよ。でも、生きるってそういうことでしょ。お互いを必要として守って支え合っていく、って」
「ふん、まどろっこしいな。それに、弱い

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物語のタネ その九『吸血鬼尾神高志の場合#33』

物語のタネ その九『吸血鬼尾神高志の場合#33』

ブラキュラ商事会長室―――

ドラキュラ会長とハールマンの2人。
「会長、100人のゾンビに注入完了です」
ハールマンが報告する。

さあ、いよいよ久しぶりにボーイに会えるわ。
1,500年ぶりの再会。
ボーイが100人のゾンビに自分の肉体を食わせて構築した血のネットワークに侵入よ。
ネットの世界ではハッキングということ?
いや、ウィルスとして侵入?
どちらにしても、アタシとしては初めての試み・・

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物語のタネ その九『吸血鬼尾神高志の場合#32』

物語のタネ その九『吸血鬼尾神高志の場合#32』

渋谷のスクランブル交差点―――

ハチ公サイドにはゾンビが100人。
センター街入り口サイドには僕たちヴァンパイアが、50人ほど。

スクランブル交差点の歩行者用信号が青に変わる。
人の波が一斉に動き出す。
ゾンビたちがこちらに向かってやって来る、ヨタヨタと。
そんな奴らに向かって、僕たちはダッシュ。
この交差点で全てのゾンビに吸血ならぬ注血、ドラキュラ会長の血を注入するのが僕たちのミッション。

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物語のタネ その九『吸血鬼尾神高志の場合#31』

物語のタネ その九『吸血鬼尾神高志の場合#31』

僕たちはブラキュラ商事のビルから外へと出た。
皆、ドラキュラ会長に貰ったマントとシルクハットとステッキの正統派ドラキュラ3点セットを身に纏い―――。

「では、六本木と渋谷、二手に分かれよう」
尾神さんが指示を出す。
「勇利、お前は俺と一緒に渋谷な」
「分かりました」

六本木に向かうメンバーと別れ、僕たちは渋谷に向かう。
移動の車の中―――
「勇利、村田さんは・・・」
「はい、しっかりとヴァンパ

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物語のタネ その九『吸血鬼尾神高志の場合#30』

物語のタネ その九『吸血鬼尾神高志の場合#30』

ヴァンパイアの正統派3点セット「マントにシルクハットにステッキ」に身を包んだ100名を超えるヴァンパイアが揃った姿はなかなかのものだ。
いよいよこの後、ハロウィンの街に繰り出してゾンビたちとの戦いが始まる。

その前に僕にはやらねばならないことがある。
緊張と興奮が混じり合った空気が充満するホールを出る。
向かうのはブラキュラ商事の研究室。
そこにいるのは、村田さん。
僕の脳裏に先ほどホールの片隅

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物語のタネ その九『吸血鬼尾神高志の場合#29』

物語のタネ その九『吸血鬼尾神高志の場合#29』

世界中から集まったブラキュラ商事所属のヴァンパイア達がドラキュラ会長の血を吸い終わり、会社のホールのそれぞれの席に着いた。

彼らを壇上から見渡すドラキュラ会長。
推定年齢2000歳超、その人生で初めてヴァンパイアに血を吸われる、しかも100人を超えるヴァンパイアに次々と、という初めての経験に疲労困憊していた姿はもうそこには無い。
何という回復力。
まあ、疲労困憊した原因は、血を吸われたからではな

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物語のタネ その九『吸血鬼尾神高志の場合#28』

物語のタネ その九『吸血鬼尾神高志の場合#28』

「じゃあ、作戦準備開始よ。さあ、並んで一人ずつアタシの血を吸いなさい!」

ドラキュラ会長の号令を受けて、世界中から集まったブラキュラ商事の社員、つまりはヴァンパイアたちがズラリと列を成した。
皆、この会社の創始者にして伝説の存在ドラキュラ会長、いや、ドラキュラ伯爵から血を吸うことを前にして、かなり緊張しているようだ。
かく言う僕もひょんな流れからこの作戦の中心あたりにいるけれど、この中では1番の

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物語のタネ その九『吸血鬼尾神高志の場合#27』

物語のタネ その九『吸血鬼尾神高志の場合#27』

「皆で100人のゾンビにアタシの血を注入するのよ!」

ニヤリと笑うドラキュラ会長。

「うちの社員にゾンビに噛まれた人の血を吸い出すだけじゃなくて、ボーイの肉を食らったゾンビ100人を噛んでアタシの血をその身体に入れ込むのよ」

「なるほど!」
ハールマンさんが大きく頷く。
村田さんも、僕も。
「え⁈どういうこと?」
尾神さんはひとり頭の上に?マークが浮かんでいる。
「会長の血がゾンビの体に入り

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物語のタネ その九『吸血鬼尾神高志の場合#26』

物語のタネ その九『吸血鬼尾神高志の場合#26』

「ハロウィンね」

「ハロウィン⁈」
ドラキュラ会長の言葉に皆一斉に声を揃えて反応した。
会長はちょっと顎を突き出しながら自慢げ?にぐるりと僕たちを見回した。

「そう、ハロウィン。街に沢山のゾンビがいても不思議じゃない唯一の日よ」

「確かに」
尾神さんがトマトジュースのストローを咥えながら頷く。

「となると、中々手強いですね」
村田さんが眉間に皺を寄せた。
「最近のハロウィンコスプレはレベル

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