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物語のタネ その九『吸血鬼尾神高志の場合#36』

ドラキュラの身体を全て食べ尽くしたボーイ。
その場に残っているのは、ドラキュラの持っていたステッキだけ。

「これで邪魔者はいなくなった・・・」

ボーイがステッキを拾い上げる。

「これからは俺たちゾンビの世界だ」

そう言うと遠くに向かってステッキを投げ捨てた。

コーン、コーン、コツコツコツコツッッッ・・・

ステッキの転がる音が響く。

「ふん」

コツコツコツ

「よく転がるステッキだな」

コツコツコツコツコツ

「ん?」

「あら、ボーイ」
「ドラキュラ⁈」

渋谷のスクランブル交差点―――
時間と共にハロウィンの仮装をした人の数が増えて来た。
そんな中で僕たちヴァンパイアは、一人一人ゾンビの両肩を掴んで立っている。
その視線を集団の中央にいる尾神さんに向けて。
ほんの少し前、尾神さんの手が挙がると同時に、肩を掴んでいるゾンビをガブリ、そしてドラキュラ会長の血を注入した。
それを見てキャー!と盛り上がるギャラリーはひとまず無視して・・・。

再びゾンビ、ボーイの精神世界―――

「ドラキュラ⁈お前のことはさっき・・・」
「ええ、食べられたわよアンタに」
「なのに何故⁈」
「新しい血よ」
「新しい血?」
「そう、アタシの新しい血が注入されたのよ、この世界に」
「どうやって?」
「アタシの仲間たちがね、アタシがアンタに食われる度に新しい血を注入するのよ」
「なに⁈」
「アンタを倒すま、うひゃヒャひ!」
「な、なんだ⁈急に」

おなじ頃、ブラキュラ商事―――

「会長、くすぐったくてすみません」

ハールマンがドラキュラ会長の脇腹に噛み付いて血を吸っていた。
その横には大きな水筒らしきものを持った村田さん。
そこに吸った血を入れるハールマン。
ハンカチでちょっと口元を拭いながら、
「村田さん、では、この血を渋谷の尾神たちに届けて下さい」
「はい」
「気をつけて」

そして再びゾンビ、ボーイの精神世界―――

「ウヒっ、失礼。だから、アンタを倒すまで、アタシは次々と出て来るわよ」
「なぜそんなことが」
「アタシは生きているからよ。生身の身体を持ってね。アンタと違って」「ふん、身体がどうした。身体ならゾンビにだってある。そして、身体が無くても俺はこうして生きているぞ。逆に、身体が無いからこそ、更に完璧に永遠に、だ」
「アンタは生きていないわ。そして、ゾンビもね」
「なに⁈」
「身体無き心、そして心無き身体。それはどちらも生きているとは言えないわ。そしてね、身体があって心があるってことは、それぞれ別の存在ってこと。それぞれの思いがあってそれぞれの人生があるってこと」
「ふん、そんなことは面倒臭いんだよ、生きている上で。俺はそこを全部決めてやろうと言うわけだ。人類も感謝するぞ、きっと」

「それは何も生み出さない」
「?」
「生きているというのは、何かを生み出せるということ。大変かもしれないけど、何かを生み出せるということで希望が生まれる。何かを生み出し、希望をつなげて行くこと、それこそが永遠に生きるということよ。そして、アタシは今、心と身体が一つになって生み出せてるの、新たな血を」
「⁈」
「この血は、希望の血よ、決して枯れることの無い」

一方の渋谷―――

「こちらです」

村田さんがやって来た。
ブラキュラ商事のヴァンパイアたちに小さな瓶を配っている。
中に入っているのは・・・ドラキュラ会長の新たな血だ。

尾神さんの手が挙がる。

僕たちは瓶の中身を口に含むと一気にゾンビたちに注入した!






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