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物語のタネ その九『吸血鬼尾神高志の場合#34』

ボーイの意識世界に血のネットワークでアクセスしたドラキュラ。
今、二人は1,500年ぶりに再会した。

「俺を消す?」
「そうよ、人類を守る為にね」
「人類?おいおい、ヴァンパイアを守る為だろ、本音は。お前達は人間の血が無くなったら生きていけないからな」
「勿論それはあるわよ。でも、生きるってそういうことでしょ。お互いを必要として守って支え合っていく、って」
「ふん、まどろっこしいな。それに、弱い。俺とお前はイエスから永遠の命を授かったが、お前はある意味条件付きだ。だが、俺の方は違う。ゾンビには何も条件は無い。ゾンビになれば本当に永遠の命が得られるのだ」

「でも、それはアンタの意識の下でね」
「何度も言わせるな。そのおかげで悩むことから解放される人生が得られるんだ、幸せなことだろ」
「何度も言わせないで。それは幸せじゃない」
「お前みたいに我の強い奴にはな」
「悪かったわね。ただ、人はそれぞれ違うのよ。それを認めないのは絶対におかしい」

「人はそれぞれ違う、な・・・・」
ドラキュラの目をジッと見つめるボーイ。
やがてその視線を外して・・・。
「人はそれぞれ違う、その結果、今人類はどうなっている?」

「え?」
「その、『それぞれ違う』を人類は受け入れられているか?」
「?」
「受け入れられていたら、戦争もつまらん抗争も無くなっているはずだろ」
「・・・」
「人はそれぞれ違う。人類はそれを受け入れ切れなかったんだよ」
「それは・・・」
「俺たちゾンビが何故1,500年ぶりに目覚めたのか、最近わかったよ」
「?」

「これは神の判断なんだよ」

「どういうこと?」
「1,500年前、神は人類に選択肢を与えた。そう、ゾンビと生きるかヴァンパイアと生きるか、だ。そして、人類はお前達ヴァンパイアを選んだ。お前が言うところの、お互いの違いを認め合い、支え合う関係だな。そういう生き方を選んだ」
「・・・」
「それから1,500年、どうなった?お互いの違いを認め合うどころか、違いがあると敵とみなし戦争を繰り返して来たんじゃないか?しかも、キリスト教の名の下においてもだ。“汝の隣人を愛せよ”の言葉を知りながら、隣人と自分との違いも許せない、というな」
「・・・」

「だからな、神は諦めたんだよ」
「?」
「お互いの違いを認め支え合う、というパターンは無理なんだ。とな」
「・・・」
「絶対的な統制による平穏。それが人類にとって一番の幸せの形なんだよ」
「・・・」
「それで俺たちが復活した。物理的には南極の永久凍土が溶けたからだが、それも人類が行ったことの影響だ。つまりは、人類は自ら俺たちを目覚めさせる道を選んだということだ」
「・・・」

「だから、お前たちヴァンパイアは、もう用済みなんだよ!」

ボーイが吠えた。


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