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物語のタネ その九『吸血鬼尾神高志の場合#31』

僕たちはブラキュラ商事のビルから外へと出た。
皆、ドラキュラ会長に貰ったマントとシルクハットとステッキの正統派ドラキュラ3点セットを身に纏い―――。

「では、六本木と渋谷、二手に分かれよう」
尾神さんが指示を出す。
「勇利、お前は俺と一緒に渋谷な」
「分かりました」

六本木に向かうメンバーと別れ、僕たちは渋谷に向かう。
移動の車の中―――
「勇利、村田さんは・・・」
「はい、しっかりとヴァンパイアの務めを果たして来ました」
「そうか」
「はい」
尾神さんはそれ以上何も言わずに窓の外に視線を移す。
そんな尾神さんを見ながら僕は思った。
この人も今の僕のような気持ちをたくさん味わって来たんだろうな、と・・・。
でも、僕は誓ったのだ、再び村田さんと、と。
その為にもこの戦いには勝たねばならない、絶対に・・・。

そんなことを考えていると、
「着いたぞ、渋谷」
尾神さんの声で我にかえる。
車が着いたのはスクランブル交差点のすぐ近く。
僕たちが車から降りてみると、さすが、ハロウィン当日の渋谷だ。
まだ夕方早い時間だというのに、そこにはモンスターがうじゃうじゃ。
パッと見た感じでは、圧倒的にドラキュラよりゾンビが多い。
映画もドラマも、ゾンビものは新作が毎年出てくるけどヴァンパイアものは無いものな。
ちょっと悔しい。

「さてさて、ゾンビだらけだな。こちらのお出ましだ」
尾神さんが左手につけたアップルウォッチを僕の方に向ける。
そう、正真正銘のアップル製、ただし、機能はゾンビセンサーのみ。
これ、この戦いが終わったらどうなるのかな?
後でアプリ追加とか出来るのだと嬉しいけど・・・。

「よし、パトロールだ。常に自分のバディと二人一組で行動すること、いいな」
渋谷担当のメンバーたちがコクリと頷く。
僕たちブラキュラ商事の社員は常に二人一組のバディ制度なのだ。
僕のバディが尾神さんで良かった。
初めて会った時はどうしたものか、と思ったけど、今はこんなに頼もしい先輩はいない。
「勇利、行くぞ」
「はい」

僕と尾神さんはセンター街に入っていく。
いるいるいる、ゾンビだらけだ。
だが、その誰もがゾンビのメイクをしているだけで、顔は明るく笑顔だ。
仲間と談笑している。
僕たちがボーイたちの根城、あの倉庫で出会ったゾンビ、本物のゾンビたちの暗くじっとりとした目を持つ者はいない。
皆、楽しそうだ。
センター街をまっすぐ進んでマクドナルドのところまで来た。
出会ったゾンビの数はかなりだが、今のところセンサーに反応無し。
「渋谷以外のところに行っているんですかね?」
「いや、奴らも100人しかいない。効率を考えると渋谷か六本木で行動を起こすに違いない」
「それは、そうですね」
「ちょっとPARCO方面に行ってみるか」
と、その時、尾神さんのケータイが鳴った。
すかさず出る尾神さん。
「どうした?」

「センサーに反応がありました!」

「どこだ?」

「渋谷駅です」

「駅⁈」

「センサーによると大量のゾンビが今、山手線のホームから改札に向かっています!」
電車移動⁈
そうか、ボーイたちは歩き以外では電車で移動した経験しか無い。
なんと言っても1500年ぶりの復活だからな、車って何だ?状態だよな。

「わかった、すぐに向かう!」
ケータイを切ると同時に、尾神さんと僕はセンター街を駅に向かって走り出す。
スクランブル交差点はさっきよりもさらに人混みが増していた。
センター街の入り口を出たところから交差点の向かい側、駅の方を見る。
駅から大量のゾンビが出てくるところだった。
僕たちのゾンビセンサーも反応する。
普段、あんな大量のゾンビが出て来たら街は大パニックだろう、そもそも電車に乗れないよな。
でも、今日はハロウィン、気に留めている人は誰もいない。

「センサーの反応からすると渋谷に一極集中しているようだな」
ゾンビセンサーウォッチを見て尾神さんが言う。
「勇利、六本木チームに渋谷に来るように連絡を」
「はい」
僕はチームの皆にLINEを打つ。
そうしているうちに渋谷チームの面々が僕たちのところに集まって来た。
そして、反対の駅側にはゾンビたちが並んでいる。

「奴らがセンター街に入って来てバラバラになったら面倒だ。ここで食い止めるぞ」
尾神さんが指示を出す。
「六本木チームが来るのは待てない。ノルマ、1人2ゾンビ、な」
頷くヴァンパイア軍団。

「ちなみに、スクランブル交差点の横断可能時間は点滅時間も入れて47秒だ」
僕たちのチャンスは47秒間。

歩行者用信号が青に変わる。

僕たちはスクランブル交差点に足を踏み出した・・・。



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