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物語のタネ その九『吸血鬼尾神高志の場合#38』

「あら?どうしたのかしら?」

それまで、地獄の底から響いて来るような深く低い声で話していたボーイが、急にドラキュラのような口調、ちょっとオネエな声色になっている・・・。

「ふふ、ついに満腹。アタシの血がアンタの血と混ざり合ったのね」
「どういうことよ?」
「ハッキングよ」
「ハッキング⁈」
「そう」
「なんなのよ⁈それ」
「アンタ、1,500年も眠っていたから知らないだろうけど。アンタが眠っている間に色々と進歩したのよ技術が。簡単に言うと“乗っ取り”よ」
「乗っ取り⁈」
「ただね、人間において言えば、ずっとあったことよ。洗脳ね」
「洗脳⁈」
「そう。自ら考えることをやめさせて、こちらの意のままに操る。操られている本人は自分の意思で動いている気になっているかもしれないけど、それは錯覚。これ、アンタがやろうとしていたことよ」
「⁈」
「どう?自分がやられる身になって。アンタが言っていたように、自分で考えないことって楽で幸せなことかしら?」
「⁈」
「イエスが、何故アタシとアンタに永遠の命を授けたと思う?」
「人間を導くため、でしょ?」
「……」
「ドラキュラ、アンタ、忘れたの?人間はね、イエスを死刑に追いやった。あんなにも人間の幸せを説いたイエスを。でも、イエスはそんな人間を赦し、尚且つその幸せを願ったわ。人間の愚かさをイエスはわかっていたのよ。だから、正しい道に導く為に、自分の代わりにアタシたちに永遠の命を授けたんじゃない」
「・・・」
「人間は愚かよ。イエス無き後も争いを続け、眠っていた1,500年経っても何も変わっていない。だから導く時が来たのよ。アンタとアタシで導くの」
「・・・アタシたちの永遠の命は導くためにあるんじゃないわ」
「え?」
「人間に寄り添うためよ」
「寄り添う?」
「そうよ、決して導くためじゃない。人間は確かに愚かだわ。今この時もイエスの言葉『汝、隣人を愛せよ』の真逆の行為をしている人がいっぱいいるわ。でもね、愚かさもイエスは赦しているのよ」
「赦しているだけじゃ意味が無いわ。人間の一生の時間はあっという間。その限られた時間の中では何も変わらないわよ」
「そうね。生まれてから死ぬまで、永遠の命を手に入れたアンタやアタシとは違って人間の一生は短いわ。でもね、その限られた時間を悩み苦しみながら、自らの意志のもとで生きることによって永遠と同じ価値、いや、アタシたちよりも価値ある時間を生きることが出来るのよ」
「・・・」
「アタシたちの役目は、そんな永遠そして無数に繰り返される人間の生を見守り続けることよ」
「・・・」

「さあ、戻りましょう」

渋谷の街―――

勇利たちブラキュラ商事のヴァンパイアたちが100人のゾンビの両肩を掴んで立っている。

僕が掴んでいたゾンビの体がブルっと震えた。
と思うと、ゆっくりと踵を返して渋谷駅の方に歩き出した。
周りを見ると他のゾンビも同様だ。

ドラキュラ会長、もしかして・・・。


 

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