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物語のタネ その九『吸血鬼尾神高志の場合#37』

渋谷の街角―――

100人のゾンビの体にドラキュラ会長の血が注入される。
それを見て周りの仮装した女子たちが再び上げる「キャー💕」という歓声は無視して、僕たちは先ほど村田さんが届けてくれた血を更に注入する。

一方、ボーイの精神世界―――

「よう、ボーイ」
「こんにちは、ボーイ」
「久しぶりだな、ボーイ」



次々と新たなドラキュラが出現していた。
「ふん、数で勝負か?」
鼻で笑うボーイ。
「全部食い尽くしてやるぜ!」
そう言うやいなやボーイの腕が伸び、ドラキュラたちを一掃するかのように抱き込むと、次から次へと口に放り込む。

再び訪れる静寂。
そして、

コツーン コツーン コツーン

再び聞こえる足音。

「またか!」

ボーイが足音のする方を睨む。

ブラキュラ商事会長室―――
ドラキュラ会長とハールマンがいる。

「ボーイのやつ、食いしん坊だわね。もっとアタシの血を注入しないとだわ。ハールマン、吸いなさい」
「しかし、会長、このペースで吸血しますと、さすがにダメージが・・・」「大丈夫よ、ヴァンパイアは不死身なのよ」
「それは、定期的に人間の血を吸血してのことですから・・・。吸血されているヴァンパイアは会長が初めてですから、予測がつきません」
「ヴァンパイアにとって壮大なる実験ね。となると、第一号のアタシがやるのがふさわしいじゃない」
「しかし、危険が・・・」
「アンタたちがいるから大丈夫よ」
「え?」
「アタシがどうなろうとも、アンタたちがいるから。ヴァンパイアは、そして人類は大丈夫」
「・・・」
「だから、この戦い、負けるわけにはいかない。アタシの命にかけてね」「会長・・・」
「さあ、早く吸いなさい。アタシの血がボーイの血を支配するまで!」
「・・・わかりました」

ハールマンの頬を涙が伝う。
跪くとゆっくりと口を開け、鋭い歯をドラキュラの脇腹に近づけていく。
ゆっくりと目を瞑るドラキュラ。
やがてその歯がドラキュラの脇腹に・・・

「ウヒャヒョヒョヒョ〜!!」

身を捩るドラキュラ。
ふと、ハールマンの脳裏に不安がよぎる。

“この人、失血の前に笑い死にするんじゃないか⁈“

「ウヒョウヒョウヒョ!〜!〜!」

会長室にドラキュラの声がこだまする。

そして、渋谷―――

リーダーの尾神さんの合図に従って、僕たち100人のヴァンパイアによって100人のゾンビに次々と注入されるドラキュラの血。
もう何度噛み付いただろうか。
ゾンビたちは一向に刃向かったりしてこない。
それどころか反応さえもほとんど無い。
きっとボーイとドラキュラ会長との壮絶な戦いが続いて、何も指令が来ていないからだろう。
意志を持たないで生きて行く、これって生きているとは言えないよな・・・。
そんなことを思っていると、再び村田さんが会長の新たな血を持ってやって来た。
もう何度目だろうか、会長は大丈夫なんだろうか・・・。

ボーイの精神世界―――

現れるドラキュラを次々とボーイが喰らう。
その度に新たなドラキュラが現れる。

「相変わらずしつこいな、ドラキュラ」
「あら、今更分かったの?長い付き合いなのに」
「だが、いつまでそれが続くかな」
「⁈」
「そろそろ、お前の血も尽きる頃なんじゃないか?」
「・・・」
「そして、お前の命もな」
「・・・」

睨み合う二人。
沈黙が流れる。

「人に頼らないといけない命ってのは儚いわね〜」
「⁈」
「ん?わね〜⁈」

「そろそろ満腹になったようね」

ドラキュラがニヤリと笑う。


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