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さよならのあとさきに

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人と人との別れ、昨日までの自分との決別、取り巻くまわりからの別れ。
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さよならのあとさきに 小雪 (4)

さよならのあとさきに 小雪 (4)

  女性としての幸福って何?
  私は、家庭より女を選んだ。
  でも、女は変われる事を知った。

 「おう、お帰り。何年ぶりかな。」
 蒼が実家に帰省した。
 先日話のあった脱毛サロン開業の眼科医、早乙女に会う為。そしてお腹の子の事を目の前の男に告げる為。サロン開業後は勤務しながら子育てをするつもりである事を告げようと考えている事。
 「お母さんの三回忌以来かな、、、ゴメン、寄り付かなくて。」

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さよならのあとさきに 小雪 (3)

さよならのあとさきに 小雪 (3)

  女性としての幸福って何?
  私は、家庭より女を選んだ。
  でも、女は変われる事を知った。

 岸田蒼が、母を軽蔑し父を信用せず、男性はただ単なるSEX相手だとし、生涯のパートナーとか、愛し愛されるその人だけのものと考えなくなった理由。

 岸田家は、地方都市の郊外に田畑や山腹の果樹栽培を営む農家。
 大東亜戦争後のアメリカ占領統治時代、農地改革と称した地主と小作体制の破壊工作が有った。
 

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さよならのあとさきに 小雪 (2)

さよならのあとさきに 小雪 (2)

  女性としての幸福って何?
  私は、家庭より女を選んだ。
  でも、女は変われる事を知った。

 
 お腹の子を堕ろす事にした蒼。いつ手術とするかスケジュールを立て始める。

 向井、井上には話さない。父親はどちらかだとは思うが、違う可能性も心当たりが無くはない。あの前にワンナイトが3人続いた。置き忘れと妊娠が直接関係するのか、分からない。
 2人に話したところで何かしてくれるとは思わない。多

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さよならのあとさきに 小雪 (1)

さよならのあとさきに 小雪 (1)

  女性としての幸福って何?
  私は、家庭より女を選んだ。
  でも、女は変われる事を知った。

  岸田蒼(あおい) 38歳。
 脱毛サロンに勤務する元看護士。
 このサロンも開業して10年。新規開店時から在籍する蒼はリーダー的役割。多忙な日々を送っている。
 プライベートでは、医師の愛人として15年。このサロン開業時の営業マンとセフレ関係としての10年。私生活のSEXも満足している。
 その

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さよならのあとさきに  秋分 (7)

さよならのあとさきに 秋分 (7)

あとがき

 偶然に隣り合わせた、家族の会話を盗み聞きした内容から湧き出た妄想話。
 書き進めた時、昔の人々の暮らしが気になり始めた。早速、区立図書館で民俗学の本を読み漁るようになる。

 宮本常一と言う民俗学者がいた。
 日本中旅をして、在地の風習や性のあり方を追求した学者である。
 その人の本を眺めていると、『一夜ぼぼ』と言う言葉が目に入った。
 ”ぼぼ”とは関西地区での、性行為や女性器を表す

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さよならのあとさきに  秋分 (6)

さよならのあとさきに 秋分 (6)

 生きる

 利彦が小学校へ上がる頃、響子がまた大きなお腹を抱え、帰ってきた。
 「大きゅうなっとるのぉ~、、、また男の子かの?」
 「分からん。どっちでもええし。」
 親子3人の暮らしが再開した。
 2ヵ月後、生まれたのは女の子だった。光(ひかり)と名付けた。
 杏子は光の世話をしながら家事をした。
 突然、弾けた様に掃除をしたり、夜中中ミシンに向かい袋や雑巾、子供服を作ることもあった。
 また

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さよならのあとさきに  秋分 (5)

さよならのあとさきに 秋分 (5)

 家族

 幸利と杏子の新婚生活が始まった。
 杏子が幸利の農業を手伝う事は無い。畑で季節の野菜を育てている。
 近所の人が興味津々で訪ねてくる。最初は愛想よく振舞う杏子も段々と疎ましくなる。評判も悪くなる。

 幸利が街へ女を買いに行っていた金が生活費や杏子の小遣いとなる。
 杏子はそれで洋服や化粧品を買い足していく。それでどこかへ出かける訳ではなく、買ってきた洋服を着て化粧をした姿で幸利の前で

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さよならのあとさきに  秋分 (4)

さよならのあとさきに 秋分 (4)

 見合い

 「こちらが川端幸利くん。で、こちらが遠藤杏子さん。まあ後は若いもん同士でしゃべっといてぇ、、、わしらは向こうで酒、飲みょうるけぇ。」
 幸利が暮らす集落の班長さんが見合い話を持ってきた。幸利の返事を聞く前に、会う日と場所を決めてきたという。
 日ごろ何かと気をかけて貰っている人からの話。幸利は会ってみるだけあってみる事にした。

 「あの、、、杏子さんはお見合い、何回目くらいですか?

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さよならのあとさきに  秋分 (3)

さよならのあとさきに 秋分 (3)

 ある農夫の話

「つまらん事は、棺桶と一緒に最後に焼いてくれぇ。」

  川端幸利、昭和10年生まれの88歳。
 広島県北部の山村で、農業を営む。
 妻は杏子、既に他界している。
 子供は男と女、二人。
 最近、息子を亡くした。親より早く逝った親不孝者ではあるが、可愛い孫を残してくれた孝行者でもある。
 娘は広島市で看護師をしている。いまだ独身を通し、いずれ助産師の資格を取ると話す。

 百姓と

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さよならのあとさきに  秋分 (2)

さよならのあとさきに 秋分 (2)

 子

 乗り込んだ車両はボックス席が8個くらいで、3人横並びのシートが前と後ろ両側にある1両タイプ。
 入ってすぐの横並びに俺は座る。
 すると例の3人は、すぐ横のボックス席へと陣取った。俺の左側に背凭れを挟み、あの男性が座った。
 「私、眠い、、、」と子供の声がした。ボックスの片側に寝た様だ。女性は男性の隣に座った。
 車両には他の乗客はいない。内心、例の話の続きをしてくれと祈る。
 汽車が走

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さよならのあとさきに  秋分 (1)

さよならのあとさきに 秋分 (1)

 親子

 「ねえねえ、おじいちゃん。明後日楽しみだね。」
 中国地方の山間部、2時間に一本程度しかない汽車を待つ無人駅に、親子3代と思われる家族。
 孫娘らしい女の子が、祖父らしい男性の顔の前を、見上げる様に満面の笑みを浮かべ話しかけている。
 「おう、そうじゃのぉ~。わしゃ、始めて行くんじゃが、かぐや 案内してくれるかいのぉ~。」
 「うん。任せといて。」
 「お父さん、かぐやに振り回されると

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さよならのあとさきに 立秋 (5)

さよならのあとさきに 立秋 (5)

 3日後、春香の告別式が葬祭ホールで行われた。クラスメイトが10名ほど参列していた。
 賢一が、受付で香典を渡し記帳している最中にも、そのクラスメイトたちが話しかけてくる。
 「松波君、春香と何話してたの?、同窓会の後、会ってたんでしょ。」
 「賢一、お前何か心当たりねえの。」
 と、話しかけてくる。式開始まであと20分くらいあるはず。式場から出てソファーの有る待合エリアへと移動した。
 「春香は

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さよならのあとさきに 立秋 (4)

さよならのあとさきに 立秋 (4)

 翌朝賢一は、Aからの電話で起こされた。
 『賢一、、、上倉が、上倉春香が自殺した、、、、神社で首を吊ったそうだ。』
 「はあ?、、、春香が、、、、、、自殺?」
 『さっき刑事がうちに来た。お前、昨日春香と会ってただろう。その事、しゃべったぞ。』
 「ああ、会ってた。でも一時間くらいで別れた。そうか、、、刑事が来るのか。」
 『お前、、、関係してないよな、、、、』
 「俺には関係無いと思うよ。多分

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さよならのあとさきに 立秋 (3)

さよならのあとさきに 立秋 (3)

 「喫茶店とかファミレスとか涼しい所の方が良いすかね。」
 公園に着いた賢一は春香に尋ねた。
 「ううん、他の人が居ると目が気になるから、ここで。」と春香は目を伏せ答えた。
 【人の目?、、、】賢一、春香は何を気にしているのだろう、何か有るのかと思いながら、春香の希望通りに屋根付きベンチへと座る。
 「あ、俺何か冷たいもの買ってきます。」賢一は、公園の入り口にある販売機へと向かい、カルピスソーダと

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