イラストレーター夫は「見る」ことで世界を掴むらしい
夫は「見る」ことで世界を掴めるらしい。
うちの夫は今グラフィックデザイナーとして働いている。
肩書きはデザイナーだが、業務内容は完全に絵描き、イラストレーターだ。
風景からキャラクターまで、日がな一日ありとあらゆる絵を描いている。
確かに大学では美術系の学科だったが、つい半年前まで夫は介護職員だった。
みなさんご存知の通り、介護職は慢性的な人手不足で激務なうえ、賃金も低い。趣味の自転車も、絵を描く時間も取れず、ストレスでボロボロになる日々を送っていた。
それが転職して急に絵を描くことに。
私の記憶では、ここ数年、夫はまともに絵を描いていない。それでも仕事にでき、金を取れ、商品にできるレベルでバリバリ描けていることを不思議に思い、尋ねてみた。
「あんなにブランクあったのに、よくこんなに描けるね」
「描いてない間も、Twitterとかで上手い人の絵をみてたからね」
あなたは理解できるだろうか。
私は喧嘩を売っているのかと思った。
見ているだけで描けるなら苦労しないよ!
ところが夫の言い分はこうである。
「いや、ちゃんと構造とか考えて見てたってことだよ」
「物理的に描かないと、僕だってはっきりしないよ。けど、描ける状況にない時は頭の中で再構成して書いたり描いたりしてるんだよ。」
そうか、すごいな。
見て、脳内で消化、再構築できるのか。
そういえば以前夫は、「ものを見れば大体構造とか、展開図とか、仕組みがわかる」と言っていた。
私はものを見ただけでは何がどうなってるのかわからない。
見えないところは見えないからだ。
………だって、見えない、じゃん……?
私と夫は随分ものの見え方が違うらしい。
だからかはわからないが、夫は美術予備校に通うことなく美術系の学科に合格している。
世の中には色んな人がいるなぁ。
◇◇◇
いっぽう私は、物理的に「書くこと」で物事を掴んでいるように思う。
昔から勉強する際は、ひたすらノートに書いていた。
教科書や資料集に載っている図や表を模写したり、自分なりにテキストや授業の内容を再編集して書き記すのが好きだった。
テキストを開けば資料は載っているし、先生が用意した穴埋めプリントに概要はまとまってる。それでもいちから自分で書いて、まとめなおして、ノートを作るのが楽しみだった。
元々知識欲がある方だと思うが、実は「書くこと」が好きだったから勉強が楽しかったんじゃないかと近頃思い始めたほどだ。
今も、読書の際はカードに気に入った部分を書き記す、ということを長年続けている。
一度本を読み終わったあと改めてページを戻って書き写していると、どんどん内容が頭に入ってくる感覚がある。
ただ読むだけではするりと滑ってしまうのが、ちゃんと身体に刻まれる感じがするのだ。
家事育児仕事に追われて脳がバカになっているの面もあるのかもしれないが……。
私の場合は見るだけではだめで、「書くこと」で世界を把握しているんじゃないかと思う。
こう書くと、一手間かかって効率が悪い気もするが、「書くこと」そのものも、「書いて、理解すること」も「書いて掴んだという感覚」も好きなので、ぜんぜん苦にならないのである。
それに、私の目は、見えているはずなのに随分ぼんやりしている。
いつもの道にどんなお店があるか、よく行く場所の隣に何があるか、全然わかっていなくて、「君は一体何を見て歩いているんだい」と言われたりする。
そう言われると、自分でも私は何を見て歩いてるんだろう、と思う。
ちゃんと起きて、何かを見て、転ばずに歩いてはいるんだけど……。
目的地のことしか考えていないか、歩いている間ずっと別の考えごとをしているのだと思う。
だから夫の「見る」という世界の掴み方はとても不思議だ。未知の世界。
たった2人の標本でもこんなに違うのだから、世の中にはもっとたくさんの世界の掴み方があるのだろう。
あなたはどのようなアプローチで、世界を把握していますか?
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