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まいにち易経_0818【調和を失ったリーダーシップの末路】龍野に戦う。その血玄黄なり。象に曰く、龍野に戦うとは道窮まればなり。[02䷁坤為地:上六]

上六。龍戰于野。其血玄黄。 象曰、龍野于戰、其道窮也。

上六は、竜に戦う、その血玄黄げんおう。 象に曰く、竜野に戦うは、その道窮まればなり。

ある企業の新人研修に招かれた老易学者が、
未来のリーダーを担うポストZ世代の若者たちに向かって語る

まず、易経というのは、古代中国の知恵が詰まった書物で、人生の様々な場面で私たちに示唆を与えてくれるものです。今日お話しする『坤為地』の上六は、特にリーダーシップと組織運営に関する深い洞察を含んでいます。

さて、この教えは「龍、野に戦う、その血、玄黄」という言葉で始まります。一見難しそうですが、実はとても身近な教訓が隠されているのです。

まず「龍」というのは、ここではリーダーや上司を表しています。「野に戦う」というのは、本来の場所や立場を離れて争うことを意味しています。そして「血が玄黄」というのは、黒と黄色が混ざった状態、つまり混乱した状況を表現しているのです。

これを現代の組織に当てはめて考えてみましょう。例えば、ある会社で部下たちが突然、上司の権限を奪おうとしたり、経営陣に反旗を翻したりするような状況を想像してください。これが「龍、野に戦う」状態なのです。

このような状況が起こると、組織全体が混乱に陥り、まさに「血が玄黄」の状態になってしまいます。社内の雰囲気は悪くなり、業績も落ち込み、最悪の場合は会社自体が存続の危機に陥ることもあるでしょう。

ここで重要なのは、なぜこのような状況が起こるのか、ということです。易経では「その道窮まればなり」と説明しています。これは、物事が行き詰まった時に起こる現象だということです。

例えば、会社の方針が時代に合わなくなっていたり、上司のリーダーシップに問題があったりする場合、部下たちは不満を抱き、やがて反発するようになるかもしれません。または、部下たちが自分の立場を忘れて、過度に権力を求めるようになることもあるでしょう。

どちらの場合も、組織の調和が崩れ、本来あるべき秩序が乱れてしまうのです。これは、会社だけでなく、学校、スポーツチーム、さらには国家レベルでも起こり得ることです。

では、将来のリーダーを目指す皆さんは、このような状況をどのように防ぐべきでしょうか?また、もしこのような状況に直面したら、どのように対処すべきでしょうか?

まず、予防策として最も重要なのは、常に組織全体のバランスを意識することです。リーダーは確かに強くあるべきですが、同時に柔軟性も必要です。部下の意見に耳を傾け、時代の変化に適応する努力を怠らないことが大切です。

また、部下一人一人の能力や個性を正しく評価し、適材適所で活用することも重要です。人々が自分の役割や立場に満足していれば、「野に戦う」ような事態は起こりにくくなるでしょう。

コミュニケーションスキルも非常に重要です。定期的に部下と対話の機会を設け、彼らの考えや懸念を理解するよう努めましょう。問題が小さいうちに察知し、対処することができれば、大きな混乱を防ぐことができます。

そして、もし既に「龍、野に戦う」ような状況に陥ってしまったら、まず冷静になることが大切です。感情的になって対立を深めるのではなく、なぜこのような事態になったのかを客観的に分析する必要があります。

その上で、両者の主張をよく聞き、妥協点を見出す努力をしましょう。場合によっては、第三者の調停を求めることも有効かもしれません。重要なのは、組織全体の利益を最優先に考えることです。

ここで、歴史上の興味深い例を紹介しましょう。古代ローマの政治家、キケロは「調和は小さな物事を成長させ、不和は最大の物事を崩壊させる」という名言を残しています。これは、まさに今日お話ししている易経の教えと通じるものがあります。

また、日本の歴史を振り返ると、戦国時代の名将、武田信玄の「人は城、人は石垣、人は堀」という言葉が思い出されます。これは、組織の強さは個々の人間の力にあるということを表しています。リーダーがこの認識を持ち、部下一人一人を大切にすれば、「龍、野に戦う」ような事態は避けられるでしょう。

皆さんに一つアドバイスをさせていただきたいと思います。リーダーになる前に、まずは良い「臣下」、つまり良い部下になる経験をしてください。上に立つ人の苦労や決断の重さを理解することで、将来リーダーになった時により適切な判断ができるようになるでしょう。

また、常に学び続ける姿勢を持つことも大切です。世の中は刻々と変化しています。昨日の正解が今日は間違いになることもあります。謙虚に学び続ける姿勢があれば、「その道窮まる」ことも避けられるでしょう。

易経の教えは、時として難解に感じられるかもしれません。しかし、その本質は人間関係や組織運営の普遍的な真理を突いています。今日お話しした「龍、野に戦う」の教えを胸に刻み、皆さんが素晴らしいリーダーになることを心から願っています。

組織というのは、まるで生き物のようなものです。適切に育てれば大きく成長し、素晴らしい成果を生み出すことができます。しかし、間違った扱い方をすれば、衰退し、最悪の場合は崩壊してしまいます。

皆さんには、この易経の教えを単なる古い格言としてではなく、日々の生活や仕事の中で実践していってほしいと思います。小さなチームのリーダーになった時、部活動の主将になった時、あるいは学級委員長になった時など、様々な場面でこの教えを思い出し、適用してみてください。

そうすることで、皆さんは必ず、周りの人々から信頼され、尊敬されるリーダーになれるはずです。そして、そのような経験の積み重ねが、将来皆さんが大きな組織のリーダーとなった時に、必ず活きてくるでしょう。

易経の教えは、決して難しいものではありません。要するに、互いを尊重し、適切なバランスを保ちながら、全体の利益のために協力し合うことの大切さを説いているのです。これは、古代中国の時代から現代に至るまで、変わらない普遍的な真理なのです。

皆さんの中には、将来、大企業のCEOになる人もいるかもしれません。あるいは、政治家として国のリーダーになる人もいるかもしれません。どのような立場になったとしても、今日学んだ「龍、野に戦う」の教えを忘れずに、常に謙虚な姿勢で人々と向き合い、組織を導いていってください。

そうすれば、きっと皆さんは、周りの人々に恵みをもたらす素晴らしいリーダーになれるはずです。そして、そのような人々が増えていけば、私たちの社会はもっと調和のとれた、幸せな場所になっていくのではないでしょうか。


参考出典

龍野に戦う
物事を陰陽に分けると、天は陽で地は陰、君主は陽で臣下は陰、夫は陽で妻は陰となる。また、玄(黒)は天の色、黄は地の色を表す。
陰である臣下があたかも龍(リーダー)のような勢力を持つと、玄(黒)と黄の血みどろの戦いになり、互いに傷つくことになる。自らの立場を忘れ、陰の勢力が増大すると、物事の道は必ず窮まる。

易経一日一言/竹村亞希子

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