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まいにち易経_0704【無限の受容力~育成の秘訣】貞に安んずるの吉は、地の彊りなきに応ずるなり。[02䷁坤為地:彖伝]

安貞之吉、應地无疆。

安貞あんていの吉は、地の无疆むきょうなるに応ず。

安らかで正しい態度が吉を招くのは、そのような態度がかぎりない徳にかなっているからである。

ある企業の新人研修に招かれた老易学者が、
未来のリーダーを担うポストZ世代の若者たちに向かって語る

安貞之吉、應地无疆ていにやすんずるのきちは、ちのかぎりなきにおうずるなり
この易経の言葉は「安らかで正しい態度が良いことを招くのは、それが地の限りない性質に応じているからだ」という意味になります。ちょっと難しく聞こえるかもしれませんが、これはリーダーシップにとって非常に重要な教えです。

例えば、みなさんが会社でプロジェクトリーダーになったとしましょう。そこで大切なのは、チームメンバーの意見をしっかりと受け入れ、それを活かしていく姿勢です。これが「地の限りない性質」です。

大地は、雨や日光、風など、あらゆるものを受け入れます。そして、それらを糧として豊かな実りをもたらします。同じように、リーダーも様々な意見や情報を受け入れ、それを活かしてプロジェクトを成功に導くことが大切です。

古代中国の哲学では、世界を「陰」と「陽」の二つの力のバランスで説明していました。「陽」が天や太陽、活動的なエネルギーを表すのに対し、「陰」は地や月、受容的なエネルギーを表します。『坤為地』はまさに「陰」の力を表現しているのです。

この「陰」の力、つまり受容性は、ビジネスの世界でも非常に重要です。例えば、スティーブ・ジョブズは「イノベーション画期的な商品開発は顧客のニーズを聞くことから始まる」と言っています。これは、まさに『坤為地』の教えそのものですよね。

さて、もう少し具体的に、この教えをどう活かせばいいのか考えてみましょう。

  1. 傾聴の姿勢:
    チームメンバーや顧客の声に耳を傾けることは、リーダーにとって非常に重要です。相手の言葉を途中で遮ったり、自分の意見を押し付けたりするのではなく、まずは相手の話をしっかりと聞く。これが「地の限りない性質」を実践することになるんです。

  2. 柔軟性:
    大地が様々な気候変化に適応するように、リーダーも状況の変化に柔軟に対応する必要があります。固定観念にとらわれず、新しいアイデアや方法を受け入れる姿勢が大切です。

  3. 包容力:
    チーム内には様々な個性や意見がありますよね。それらを否定するのではなく、受け入れ、活かしていく。これも『坤為地』の教えを実践することになります。

  4. 謙虚さ:
    大地が静かに、でも確実にその役割を果たすように、リーダーも謙虚な姿勢で仕事に取り組むことが大切です。自分の功績を誇るのではなく、チームの成果として認めることで、より強固な信頼関係が築けるでしょう。

  5. 持続可能性:
    大地が長い年月をかけて豊かな自然を育むように、ビジネスにおいても短期的な利益だけでなく、長期的な視点を持つことが重要です。持続可能な成長を目指すことが、真のリーダーシップです。

ここで、もう一つ興味深い例え話をしましょう。日本の茶道には「侘び寂び」という概念がありますね。これは、簡素で質素なものの中に深い味わいを見出す美意識です。この考え方は『坤為地』の教えと通じるものがあります。

茶室は非常にシンプルですが、そこには無限の可能性が秘められています。季節の花を一輪生ける、軸を掛け替える、茶碗を選ぶ……これらの小さな変化によって、茶室は常に新しい表情を見せるんです。これは、まさに大地が四季折々で様々な表情を見せることと同じですね。

リーダーシップも同じです。華々しい行動や派手なパフォーマンスだけがリーダーシップではありません。日々の小さな気配りや、静かで着実な行動が、結果として大きな成果につながるんです。

さて、ここまでお話ししてきて、みなさんの中には「でも、リーダーは強くあるべきじゃないの?」と思う人もいるかもしれません。確かに、時には強いリーダーシップも必要です。しかし、真の強さとは何でしょうか?

私は長年、大企業の経営に携わってきましたが、本当に強いリーダーとは、自分の弱さを認められる人だと感じています。完璧を求めるのではなく、自分の限界を知り、他者の力を借りることができる。そんなリーダーのもとでこそ、チームは最大の力を発揮できるんです。

『坤為地』の教えは、まさにこのことを示しています。
大地は決して自分を誇示しません。でも、その上に立つすべてのものを支え、育んでいるのです。リーダーも同じです。目立たなくても、チームの一人一人を支え、その力を最大限に引き出すことが大切です。

最後に、もう一度「安貞之吉、應地无疆」という言葉に戻りましょう。「安らかで正しい態度が良いことを招く」……これは、決して受け身的な姿勢を意味するものではありません。むしろ、積極的に他者や環境を受け入れ、それを活かしていく姿勢を表しているのです。

みなさんがこれから社会に出て、様々な困難に直面することもあるでしょう。そんな時こそ、この『坤為地』の教えを思い出してください。周りの声に耳を傾け、状況を冷静に観察し、そして自分の役割を静かに、しかし確実に果たしていく。そうすることで、きっと素晴らしいリーダーになれると信じています。

易経の教えは、何千年もの間、多くの人々の知恵の結晶として受け継がれてきました。その深い洞察は、現代のビジネスの世界でも十分に通用するものです。みなさんも、ぜひこの古くて新しい知恵を、自分なりに解釈し、実践してみてください。

そうすることで、きっと新しい発見があるはずです。そして、その発見こそが、みなさん一人一人のユニークなリーダーシップスタイルを形作っていくのです。

今日のお話が、みなさんの将来に少しでも役立てば幸いです。これからの活躍を心から期待しています。ありがとうございました。


参考出典

陰陽の「陰」の徳は、大地の営みに喩えられる。天は広く限りなく、その恵みを地上に与える。大地は天の無限の力を受け入れて、地上に万物を形成、育成し、生み出し、また恵みを天に還元する。その力もまた限りがない。
人間もこれに習って、大きく広く受容するならば、より多くを生み出し育む力量が育つ。

易経一日一言/竹村亞希子

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