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まいにち易経_0722【利益を還元する】益は、上を損して下を益す。民説ぶこと疆りなし。[42䷩風雷益:彖伝]

彖曰。益損上益下。民説无疆。

彖に曰く、益は、かみを損してしもに益す、民説たみよろこぶことかぎりなし。

ある企業の新人研修に招かれた老易学者が、
未来のリーダーを担うポストZ世代の若者たちに向かって語る

私も若い頃は、ビジネスの世界で成功することばかり考えていました。利益を上げること、会社を大きくすることが全てだと思っていたのです。しかし、長年経営に携わり、様々な経験を積む中で、本当の成功とは何か、持続可能な成長とは何かを考えるようになりました。

そんな時に出会ったのが、この「風雷益」の教えです。この卦は、私たちに非常に重要なことを教えてくれています。それは、真の利益とは何か、そしてリーダーとしてどのように行動すべきかということです。

まず、「風雷益」という言葉の意味から見ていきましょう。「風」は柔らかく広がるもの、「雷」は力強く響くものを表しています。そして「益」は利益や成長を意味します。つまり、柔軟さと力強さを併せ持ち、周りに広く利益をもたらすという意味が込められているのです。

この「風雷益」の卦は、「山沢損」の卦と対をなしています。
「山沢損」は、民が質素倹約して国に利益をもたらすという考え方です。
一方、「風雷益」は、国が民を助けて豊かにしようとする姿勢を表しています。

ここで重要なのは、この二つの卦が循環しているということです。
民が国のために尽くし、国が民のために尽くす。この循環が、持続可能な成長と繁栄をもたらすのです。

例えば、ある会社を考えてみましょう。
従業員が一生懸命働いて会社に利益をもたらします。そして、その利益を会社が従業員に還元する。給与や福利厚生の向上、教育研修の充実などです。すると、従業員はさらにモチベーションが上がり、より良い仕事をするようになります。その結果、会社の業績は更に向上し、また従業員に還元できる……。このような好循環が生まれるのです。

逆に、従業員が一生懸命働いても、会社がその利益を独り占めにしてしまったらどうでしょうか。従業員のモチベーションは下がり、優秀な人材は流出し、最終的には会社自体が立ち行かなくなってしまうかもしれません。

これは、国家レベルでも同じことが言えます。国民が税金を納め、国家のために尽くしても、その見返りがなければ、国民の不満は高まり、社会の安定は損なわれてしまうでしょう。

「風雷益」の教えは、「能く損すれば即ち益す」という言葉に集約されます。これは、適切に「損」をすることで、かえって「益」が生まれるという意味です。ここでいう「損」とは、短期的な利益を手放すことを指しています。しかし、それによって長期的にはより大きな利益がもたらされるのです。

これは、投資の考え方にも通じるものがあります。短期的な利益を追求するのではなく、長期的な視点で投資をする。そうすることで、最終的には大きなリターンを得ることができるのです。
また、この考え方は、持続可能な開発目標(SDGs)にも通じるものがあります。環境保護や社会貢献のために、短期的には利益を犠牲にするかもしれません。しかし、長期的に見れば、それが企業の評判を高め、新たなビジネスチャンスを生み出すことにつながるのです。

私自身、経営者として様々な決断を迫られる中で、この「風雷益」の教えに何度も助けられました。例えば、景気が悪化した時期に、従業員の給与カットを検討したことがありました。短期的には会社の利益になりますが、長期的に見れば従業員のモチベーション低下や人材流出につながる可能性があります。結局、給与は維持し、代わりに経営陣自身の報酬をカットする決断をしました。その結果、従業員の信頼を得ることができ、その後の業績回復にも大きく貢献したのです。

さて、これらの教えを現代のビジネスや社会にどのように活かせばよいのでしょうか。

まず、リーダーとして重要なのは、短期的な利益だけでなく、長期的な視点を持つことです。四半期ごとの業績ばかりに目を奪われるのではなく、5年後、10年後の会社や社会の姿を想像し、そこに向かって行動することが大切です。

次に、「与える」ことの重要性を理解することです。
従業員、顧客、取引先、地域社会など、あらゆるステークホルダーに対して、どのような価値を提供できるかを常に考える必要があります。それが結果的に、自分自身や組織にとっての大きな利益につながるのです。

そして、循環の重要性を認識することです。「与える」ことと「受け取る」ことのバランスを取ることが、持続可能な成長につながります。一方的に与えるだけでも、受け取るだけでもダメなのです。

私が学んだ重要な教訓は、変化に柔軟に対応することの重要性です。
風雷益の卦には、風と雷という二つの自然現象が組み合わさっています。風は柔軟で、常に変化し続けます。一方、雷は強力で、一瞬にして変化をもたらします。リーダーとして成功するためには、この二つの特性を持つことが重要です。柔軟に変化に対応しつつ、必要なときには強力な決断を下すことが求められます。

最後に、皆さんに伝えたいのは、風雷益の教えは単なる理論ではなく、実践的な知恵であるということです。私たちが直面するさまざまな問題や困難に対して、この教えを活用することで、より良い解決策を見つけ出すことができるでしょう。自分自身の利益だけを追求するのではなく、周囲の人々と協力し合い、共に成長することが、真の成功への道です。

これから皆さんが歩む道は決して平坦ではないかもしれません。しかし、風雷益の教えを心に刻み、常に周囲と協力し合い、共に成長することで、必ずや素晴らしいリーダーへと成長できることでしょう。皆さんの未来が輝かしいものであることを心から願っています。


参考出典

風雷益の卦は山沢損の卦と「損益」で一対になり、経済の基本ともいうべき循環の法則を学ぶことができる。
山沢損の卦は、民が質素倹約して国益をもたらす。これに対して風雷益の卦は、国が民を助けて富ませようとする。民は喜び、その結果、国も民も限りなく利益を生ずる。
「能く損すれば即ち益す」という言葉があるが、利益を還元しない国家、会社組織はいずれ倒れることになる。

易経一日一言/竹村亞希子

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