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まいにち易経_0911【金蘭の契り】二人心を同じくすれば、その利きこと金を断つ。同心の言は、その臭り蘭のごとし。[繋辞上伝:第八章]

同人先號眺而後笑。子日。君子之道。或出或處。或默或語。二人同心。其利斷金。同心之言。其臭如蘭。

同人先どうじんさき号眺ごうとうして後に笑う。子日く、君子の道、或いはで或いはる。或いはもだし或いは語る。二人ににん心を同じうすれば、其のするどきこときんつ。同心どうしんげんは、其のにおい蘭の如し。

13䷌天火同人:九五の爻辞には「人を合同せんとするに、始めは泣きわめくが、後には笑う」と記されています。孔子はこれについて解釈し、君子の道には、仕える者がいれば野にある者もおり、政治の場において黙している者もいれば盛んに議論する者もいるように、最初は意見が一致しなくても、最終的には和合するものだと述べています。
この二人が心を一つにすれば、敵う者はなく、その鋭さは金をも断つことができます。心を一つにした者の言葉は蘭のように香り、他の人々も聞いて心地よく感じるのです。

ある企業の新人研修に招かれた老易学者が、
未来のリーダーを担うポストZ世代の若者たちに向かって語る

今日取り上げるのは「二人心を同じくすれば、その利きこと金を断つ。同心の言は、その臭り蘭のごとし。」という繋辞上伝:第八章の一文です。この言葉は、簡単に言えば「志を同じくする二人が心を一つにすれば、硬い金属さえも断ち切ることができる。互いに真心から語り合う言葉は、蘭の花の香りのように芳しく、美しい」という意味です。

まず、前半の「二人心を同じくすれば、その利きこと金を断つ」についてお話ししましょう。ここでいう「金」は、当時最も硬いとされていた金属のことです。つまり、二人が心を合わせれば、不可能と思えることも可能になる、ということを表現しているのです。これは、チームワークの重要性を説いているとも言えるでしょう。一人では達成できないことも、志を同じくする仲間と力を合わせれば、成し遂げられるかもしれない。そんなメッセージが込められています。

次に、後半の「同心の言は、その臭り蘭のごとし」について説明しましょう。これは、「心を同じくする者同士の言葉は、蘭の花の香りのように芳しい」という意味です。蘭の花は、古来から高貴な花とされてきました。その香りは上品で心地よく、人々を魅了します。この比喩は、志を同じくする者同士の会話が、いかに価値あるものかを表現しているのです。

この教えは、現代の経営の世界でも非常に重要視されています。例えば、グーグルやアップルといった革新的な企業では、社員同士の自由な対話を促進するためのスペースを設けています。これは、「同心の言」が新しいアイデアや革新を生み出す源になると考えているからです。

さて、この言葉から派生して、二つの有名な言葉が生まれました。
「断金の交わり」と「金襴の交わり」です。「断金の交わり」は、この言葉の前半から来ています。固い金属を断ち切るほどの強い絆で結ばれた友情のことを指します。単なる飲み友達や気の合う仲間ではなく、人生の荒波を共に乗り越えていけるような、深い信頼関係のことです。

「金襴の交わり」は、後半の「蘭」から来ています。
金襴きんらんは、金糸を織り込んだ高級な絹織物のことで、ここでは蘭の香りのように上品で価値ある交友関係を表しています。これらの言葉が示すのは、表面的な関係ではなく、真に心の通った深い絆の大切さです。皆さんも、これから社会に出て多くの人と出会うことでしょう。その中で、「断金の交わり」「金襴の交わり」と呼べるような関係を築けたら、それはかけがえのない財産になるはずです。

ここで、私の経験からひとつアドバイスをさせてください。
人間関係を築く上で最も大切なのは、「誠実さ」です。相手の立場に立って考え、嘘偽りのない言動を心がける。そうすることで、自然と信頼関係が生まれてくるものです。また、多様性を尊重することも重要です。「心を同じくする」というのは、必ずしも同じ考えを持つということではありません。むしろ、異なる視点や意見を持ちながらも、同じ目標に向かって進む。そんな関係こそが、真の「同心」だと私は考えています。

私の若い頃を思い出すと、失敗を恐れるあまり、本音を言えずにいたことがありました。でも、そんな私を温かく見守り、時に厳しく指導してくれた上司との出会いが、私を大きく変えてくれたのです。その経験から、私は「本音で語り合える環境」の大切さを学びました。

皆さんも、これから様々な困難に直面することがあるでしょう。そんな時こそ、志を同じくする仲間の存在が力になります。一人で抱え込まず、信頼できる仲間と語り合ってください。そうすることで、思わぬ解決策が見つかることもあるはずです。

最後に、この教えは単に人間関係だけでなく、仕事に対する姿勢にも通じるものがあります。自分の仕事に真摯に向き合い、誠実に取り組む。そうすることで、周りの人々の信頼を得ることができます。そして、その信頼関係が、困難を乗り越える力となるのです。易経の教えは、何千年も前に書かれたものですが、その本質は現代にも通用します。むしろ、人と人とのつながりが希薄になりがちな現代だからこそ、より重要性を増しているとも言えるでしょう。


参考出典

金襴の交わり
高い志を持つ二人の人間が心を同じくすれば、硬い金属をも断ち、不可能を可能にするほどの働きをする。
また互いが真心から語り合う言葉は、蘭の花の香りのように深く、透明で、芳しい。
この一文は「断金の交わり」「金襴の交わり」の語源である。いずれも私縁ではない友、同志の結束が堅いことをいう。

易経一日一言/竹村亞希子

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