まいにち易経_0908【陰が照らす道:支える者たちの本当の価値】地の道は成すことなくして、代わって終わり有るなり。[02坤為地/文言伝]
陰雖有美、含之以從王事、弗敢成也。地道也、妻道也、臣道也。地道無成、而代有終也。
ある企業の新人研修に招かれた老易学者が、
未来のリーダーを担うポストZ世代の若者たちに向かって語る
『坤為地』は、地球や大地を表す卦です。ここでいう「地」とは、単なる土地ではありません。それは、受容性、柔軟性、そして育成力を象徴しているのです。
この卦が教えてくれるのは、リーダーシップには二つの側面があるということです。一つは、皆さんがよく耳にする「陽」の力。これは、積極的に前に出て、指示を出し、目立つ役割を果たすリーダーシップです。しかし、もう一つ忘れてはならないのが「陰」の力。これは、支える力、育てる力、そして受け入れる力なのです。
例えを挙げてみましょう。皆さんは、大きな樫の木を見たことがありますか?樫の木は、何百年もの間、風雨に耐えて立ち続けます。しかし、その姿だけを見ていては、樫の木の本当の強さは分かりません。地面の下に広がる根っこのネットワークこそが、樫の木を支え、養分を供給し、その生命を維持しているのです。この根っここそが、「坤為地」が象徴する「陰」の力なのです。
ビジネスの世界でも同じことが言えます。表舞台で輝くCEOや経営者たちがいます。彼らは確かに重要です。しかし、その陰で、黙々と仕事をこなし、新しいアイデアを育て、チームを支える人々がいなければ、どんな企業も長続きしません。
皆さんの中には、「でも、私は目立ちたいんです。脇役なんて嫌です」と思う人もいるかもしれません。それは当然の感情です。しかし、ここで一つ考えてみてください。世界を変えた偉大な発明や革新的なビジネスモデルの多くは、最初は誰にも気づかれない小さな種から始まったのです。
例えば、アップル社を考えてみましょう。今や世界最大の企業の一つですが、最初はガレージで二人の若者が始めた小さな冒険でした。彼らは、何年もの間、誰にも気づかれず、ただひたすらに自分たちのビジョンを育てていったのです。それが今、私たちの生活を一変させるほどの大きな存在になりました。
これこそが「坤為地」の教えの本質です。目立たなくても、自分の役割を果たし続けること。そして、その過程で何かを育て、成長させること。それが、最終的には大きな影響力を持つ可能性があるのです。
さて、ここで少し古代中国の逸話をお話ししましょう。春秋時代、晋の国に趙衰《ちょうさい》という賢臣がいました。彼は主君の信頼が厚く、国政で重要な役割を果たしていました。ある日、主君が彼に「お前は私の右腕だ」と褒めました。すると趙衰は「私はあなたの左腕です」と答えたそうです。右腕は剣を振るい、敵と戦う腕。左腕は盾を持ち、身を守る腕です。趙衰は、自分の役割が主君を守り、支えることだと理解していたのです。これは「坤為地」の精神そのものと言えるでしょう。
この物語が教えてくれるのは、リーダーシップには様々な形があるということです。前に立って指揮を執るだけがリーダーではありません。後ろから支え、守り、時には諌める。そういった役割も、非常に重要なリーダーシップの一形態なのです。
「坤為地」の教えは、ビジネスだけでなく、私たちの日常生活にも当てはまります。例えば、家庭を考えてみましょう。多くの場合、一人が外で仕事をし、もう一人が家庭を守ります。外で働く人が「陽」だとすれば、家庭を守る人は「陰」です。しかし、どちらが欠けても、家庭は成り立ちません。両者が互いを支え合い、補い合うことで、初めて健全な家庭が築けるのです。
また、チームワークについても同じことが言えます。チームには、アイデアを出す人、計画を立てる人、実行する人、そして後方支援をする人など、様々な役割が必要です。どの役割も、チームの成功には欠かせません。「坤為地」の教えは、そういった多様性の重要性を私たちに教えてくれているのです。
ここで、もう一つ興味深い例を挙げてみましょう。皆さんは、珊瑚礁のことをご存じでしょうか?海の中で、色とりどりの魚たちが泳ぎ回る美しい景観です。しかし、珊瑚礁の本当の主役は、目に見えない小さな生き物たちなのです。珊瑚虫と呼ばれる小さな生き物たちが、何世代にもわたって少しずつ骨格を作り上げ、やがて大きな珊瑚礁になるのです。これこそ「坤為地」の精神そのものと言えるでしょう。目立たなくても、コツコツと積み上げていく。そうすることで、やがては壮大な成果を生み出すことができるのです。
さて、ここまでお話しした「坤為地」の教えを、これからのキャリアにどう活かせばよいのでしょうか?
まず大切なのは、自分の役割を正しく理解することです。どんな仕事でも、一見地味に見える仕事でも、それには必ず意味があります。その意味を理解し、自分の仕事が全体にどう貢献しているかを常に意識することが大切です。
次に、忍耐強さを身につけることです。「坤為地」の道は、すぐに結果が出るものではありません。しかし、コツコツと積み重ねていけば、必ず大きな成果につながります。短期的な成果にとらわれず、長期的な視点を持つことが重要です。
そして、学び続ける姿勢を持つことです。「坤為地」は受容性を象徴します。新しい知識や技術を常に吸収し、自分を成長させ続けることが、将来のリーダーには求められます。
最後に、周りの人々への感謝の気持ちを忘れないことです。どんな成功も、一人では成し遂げられません。陰で支えてくれる人々の存在があってこそ、私たちは前に進めるのです。その感謝の気持ちを常に持ち続けることが、真のリーダーシップには欠かせません。
「坤為地」の教えは、一見すると消極的に見えるかもしれません。しかし、実はこれこそが、長期的な成功と持続可能なリーダーシップの鍵なのです。目立たなくても、自分の役割を果たし続けること。そして、その過程で何かを育て、成長させること。それが、最終的には大きな影響力を持つ可能性があるのです。
皆さんには、ぜひこの「坤為地」の精神を心に留めておいていただきたいと思います。表舞台で輝くリーダーになるのも素晴らしいことですが、陰で支え、育てるリーダーシップもまた、非常に重要なのです。そして、真に偉大なリーダーは、この両方のバランスを取ることができる人なのです。
参考出典
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