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まいにち易経_0720【一陰一陽の道:中庸を知る者】仁者はこれを見てこれを仁と謂い、知者はこれを見てこれを知と謂い、百姓は日に用いて知らず。故に君子の道は鮮し。[繋辞上伝:第五章]

仁者見之謂之仁。知者見之謂之知。百姓日用而不知。故君子之道鮮矣。

仁者は之を見て之を仁と謂う。知者は之を見て之を知と謂う。
百姓ひゃくせいは日に用いて知らず。故に君子の道はすくなし。

仁もまた智も、広大な道の一部に過ぎない。人はどうしても、自分の見える範囲を全体だと思い込んでしまう。仁者はその道を見てこれを仁と呼び、智者はその道を見てこれを智と呼ぶ。しかし、それ以下の一般人は日常生活でその道を利用しているにもかかわらず、その存在に気づかない。だからこそ、君子を目指す者が進むべき道は、それを理解する者が極めて少ないのだ。

ある企業の新人研修に招かれた老易学者が、
未来のリーダーを担うポストZ世代の若者たちに向かって語る

まず、ここでいう「道」とは何でしょうか。それは、この世界の根本にある原理、つまり「一陰一陽の道」のことです。陰と陽、言い換えれば、プラスとマイナス、明と暗、男性と女性など、相対する二つの要素が調和し、バランスを取りながら世界が成り立っているという考え方です。

この「道」は、実は私たちの日常生活のあらゆる場面に存在しています。例えば、仕事と休息のバランス、話すことと聞くことのバランス、リーダーシップを取ることと周りの意見を尊重することのバランスなど、様々な場面で「陰陽のバランス」が重要になってくるのです。

さて、本文では、この「道」について、三つの異なる立場の人々の見方が示されています。

まず、「仁者」、つまり思いやりのある人は、この「道」を見て「仁」だと言います。彼らは、世界の調和を人々への愛情や思いやりとして解釈するのです。例えば、チームのメンバーそれぞれの長所と短所を理解し、互いを補い合える環境を作ることが、「仁」の実践と言えるでしょう。

次に、「知者」、つまり知識のある人は、この「道」を見て「知」だと言います。彼らは、世界の調和を知恵や理論として理解しようとします。例えば、市場の動向を分析し、リスクとチャンスのバランスを取りながら戦略を立てることが、「知」の実践と言えるでしょう。

そして、「百姓ひゃくせい」、つまり一般の人々は、この「道」を日々使いながらも、それが何であるかを知らないと言います。私たちの多くは、意識せずにこの原理に従って生活しています。例えば、忙しい時期があれば休息の時期も必要だと感じたり、話し過ぎたと思えば黙って聞く時間を作ったりと、自然とバランスを取ろうとしているのです。

しかし、ここで注目すべきは、どの立場の人も「道」の一部分しか見ていないということです。仁者は思いやりの面から、知者は理論の面から「道」を理解しようとしますが、それぞれの視点に偏りがちです。また、一般の人々は無意識のうちに「道」を実践していますが、その全体像を把握できていません。

そのため、本文の最後には「故に君子の道は鮮し」と述べられています。「君子」とは、理想的な人格者のことを指します。つまり、「道」の全体を明確に理解し、意識的に実践できる人は非常に稀だということです。

ここで、皆さんにぜひ考えていただきたいのは、将来のリーダーとして、どのようにしてこの「道」を理解し、実践していくかということです。

リーダーシップを発揮する上で、「仁者」のように思いやりを持つことも、「知者」のように分析的に考えることも重要です。しかし、それだけでは不十分です。真のリーダーは、これらの視点を統合し、さらにそれを意識的に実践できる人なのです。

例えば、チームの業績を上げることと、メンバーの well-being を保つこと。短期的な利益を追求することと、長期的な持続可能性を確保すること。効率性を高めることと、創造性を育むこと。これらは一見相反するように見えますが、実はどちらも大切なのです。真のリーダーは、これらのバランスを取りながら、組織全体を導いていく必要があります。

私の経験から一つの例をお話しします。かつて私が経営していた会社で、新製品の開発に関する重要な決断を迫られたことがありました。営業部門は市場のニーズに応えるため、既存製品の改良版を早急に出すべきだと主張しました。一方、研究開発部門は、時間はかかるものの、革新的な新技術を使った全く新しい製品を開発すべきだと主張しました。

この状況で、「仁者」の視点だけでは、チームの調和を重視するあまり、どちらかの意見に偏ってしまう可能性があります。「知者」の視点だけでは、数字やデータに基づいて判断するものの、チームの感情や長期的な影響を見落とす可能性があります。

そこで私は、両方の視点を取り入れつつ、さらに大局的な見地から判断することにしました。短期的には既存製品の改良版を出しつつ、同時に長期的なプロジェクトとして新技術の開発にも着手するという決断を下したのです。これにより、市場のニーズにも応え、かつ将来の革新的な製品開発への道も開くことができました。

このように、「道」を理解し実践することは、単に理論を知ることではありません。それは、様々な視点を統合し、バランスを取りながら、状況に応じて柔軟に対応する能力を磨くことなのです。

皆さんには、無限の可能性があります。この「道」の教えを心に留め、日々の生活や仕事の中で実践していくことで、きっと素晴らしいリーダーへと成長していけると信じています。


参考出典

「これ」とは一陰一陽の道。一陰一陽の成す道は中庸である。仁者はそれを仁愛の道といい、知者は智慧の道という。
優れた識者でも、とかく自分の視点の一端に偏ってしまう。また一般大衆は日常、無意識に陰陽の理を用いて生きているが、それが何かを知らない。それ故、道全体を明確に把握して用いる者は少ないのである。

易経一日一言/竹村亞希子

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