見出し画像

まいにち易経_1005【虚心坦懐~感性を啓くマインドセット】君子以て虚にして人に受く[31䷞澤山咸:象伝]

象曰。山上有澤咸。君子以虚受人。

象に曰く、山の上に沢あるはかんなり。君子もっきょにして人を受く。

ある企業の新人研修に招かれた老易学者が、
未来のリーダーを担うポストZ世代の若者たちに向かって語る

まず、「虚」という概念について考えてみましょう。これは、心の中にある空っぽの場所のことを指しています。でも、ただの空っぽではありません。この空間こそが、私たちの感性の源なのです。

想像してみてください。みなさんの心を、一つの部屋だと考えてみましょう。その部屋が物で溢れかえっていたら、新しいものを置くスペースはありませんよね。同じように、私たちの心が固定観念や思い込みでいっぱいだと、新しい考えや感覚を受け入れる余地がなくなってしまいます。

ここで、日本の茶道の「茶室」を例に挙げてみましょう。茶室は、必要最小限の道具だけで構成されています。そこには、余計なものがありません。この「余白」こそが、茶道の精神性を高め、参加者の感性を豊かにするのです。私たちの心も、この茶室のようであるべきではないでしょうか。

さて、リーダーとして成長していく上で、「虚心坦懐」という姿勢がとても重要になってきます。これは、先入観を持たず、素直な心で物事に向き合うことを意味します。

例えば、みなさんが新しいプロジェクトを任されたとします。そこで、「こうするべきだ」という固定観念にとらわれず、チームメンバーの意見に耳を傾け、新しいアイデアを受け入れる余地を持つことが大切です。これが、まさに「虚心坦懐」な態度なのです。

さて、ここで一つ興味深い実験をご紹介しましょう。心理学者のエリザベス・ロフタスによる「虚偽記憶」の研究です。この実験では、被験者に実際には起こっていない出来事を示唆し、それが本当に起こったと信じ込ませることができました。これは、私たちの記憶や認識が、思い込みによって大きく左右されることを示しています。

このことから、私たちは自分の記憶や経験さえも、常に疑問を持って見直す必要があるということが分かります。これは、リーダーとして非常に重要な姿勢です。なぜなら、過去の成功体験に固執せず、常に新しい状況に適応する柔軟性が求められるからです。

では、どうすれば「虚心坦懐」な態度を身につけることができるでしょうか。ここで、いくつかの実践的なアドバイスをお伝えしたいと思います。

  1. 傾聴の習慣を身につける
    相手の話を、評価や判断をせずに聴くことを心がけましょう。これは、簡単なようで実は難しいスキルです。相手の言葉の奥にある思いや背景を理解しようとする姿勢が大切です。

  2. 多様性を尊重する
    異なる背景や経験を持つ人々と積極的に交流しましょう。これにより、自分とは異なる視点や価値観に触れることができます。

  3. 常に学ぶ姿勢を持つ
    「学ぶことをやめたら、教えることをやめなければならない」という言葉があります。リーダーであっても、常に新しいことを学び続ける姿勢が重要です。

  4. 瞑想やマインドフルネスの実践
    瞑想やマインドフルネスの実践は、心を落ち着かせ、固定観念から解放されるのに役立ちます。毎日少しの時間でも、静かに自分と向き合う時間を持ちましょう。

  5. 失敗を恐れない
    失敗は、新しい学びの機会です。失敗を恐れるあまり、新しいチャレンジを避けるのではなく、失敗から学ぶ姿勢を大切にしましょう。

  6. 定期的な自己省察
    自分の考えや行動を客観的に振り返る時間を持ちましょう。これにより、自分の思い込みや偏見に気づくことができます。

  7. 異文化体験
    可能であれば、異なる文化圏への旅行や留学を経験しましょう。自分の文化とは異なる環境に身を置くことで、固定観念が揺さぶられ、新しい視点を得ることができます。

ここで、もう一つ興味深い話をしましょう。禅の世界には「初心」という概念があります。これは、物事に対して常に新鮮な気持ちで向き合うことを意味します。茶道の千利休は、「稽古とは、一より習い覚えて、十を知り、十よりかえりて、一を知るなり」と言いました。これは、学びの過程で得た知識を一度すべて忘れ、本質的な「一」に還ることの重要性を説いています。

このような姿勢は、ビジネスの世界でも非常に重要です。例えば、トヨタ自動車の「カイゼン」の精神は、まさにこの「初心」の考え方に通じるものがあります。常に現状に満足せず、改善の余地を探り続けるこの姿勢が、トヨタを世界的な自動車メーカーに押し上げた要因の一つと言えるでしょう。

さて、ここまでお話ししてきた「虚心坦懐」な態度は、リーダーシップの本質とも深く関わっています。真のリーダーは、自分の意見を押し付けるのではなく、チームメンバーの意見に耳を傾け、それぞれの強みを引き出す能力を持っています。

例えば、Googleの創業者の一人であるラリー・ペイジは、「私たちは、自分たちよりも賢い人々を雇うように心がけています」と述べています。これは、自分の知識や能力に固執せず、常に新しい才能を受け入れる姿勢の表れです。

また、日本の経営者の中でも、ソフトバンクグループの孫正義氏は、「情報革命で人々を幸せに」というビジョンを掲げています。このビジョンは、単なる利益追求ではなく、社会全体の利益を考える開かれた心から生まれたものと言えるでしょう。

ここで、みなさんに一つ質問をしてみたいと思います。「自分が知らないことを、どれくらい知らないか」について考えたことはありますか?これは、「知の限界」についての問いです。

古代ギリシャの哲学者ソクラテスは、「無知の知」という概念を提唱しました。これは、自分が無知であることを知っているという意味です。この姿勢こそ、学びの出発点であり、リーダーシップの基礎となるものです。

確証バイアス

実は、私たち人間は「確証バイアス」という認知バイアスを持っています。これは、自分の既存の信念や考えに合致する情報を無意識のうちに選択的に受け入れてしまう傾向のことです。リーダーとして成長していくためには、この確証バイアスを意識し、それを超えて多様な意見や情報を受け入れる努力が必要です。

私の経験から言えることは、人生は予想もしなかった展開の連続だということです。だからこそ、固定観念にとらわれず、柔軟な心を持ち続けることが大切なのです。

みなさんの前途には、無限の可能性が広がっています。「虚心坦懐」な態度を持ち続け、常に学び、成長し続けてください。そうすることで、みなさんは必ず、素晴らしいリーダーへと成長していくことができるでしょう。


参考出典

感性の源
この「虚」は心にある空虚な隙間をいう。これは心が動く空間であり、感じる能力、感性の源である。
人の言葉や心を受け容れるには、いくら知識や経験を積み重ねても、「まだ知らないことがある」と、虚心坦懐きょしんたんかいな姿勢で向かうことが大切である。
思い込みで一杯になっていたり、知識だけにとらわれていたら、どんなに素晴らしい出来事や人物に出会っても、受け容れられず、何も感じられない。

易経一日一言/竹村亞希子

#まいにち易経
#易経 #易学 #易占 #周易 #易 #本田濟 #易経一日一言 #竹村亞希子 #最近の学び #学び #私の学び直し #大人の学び #学び直し #四書五経 #中国古典 #安岡正篤 #人文学 #加藤大岳 #澤山咸 #沢山咸 #虚心坦懐


この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?