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まいにち易経_0903【天文と人文のハーモニー:文明の輝きとその影】天文を観てもって時変を察し、人文を観てもって天下を化成す。[22䷕山火賁:彖伝]

觀乎天文。以察時變。觀乎人文。以化成天下。

彖に曰く、賁は亨る、柔来たりて剛をかざる。故に亨る。剛を分かちてのぼって柔を文る、故に小しく往くところあるに利あり。天文てんもんなり。文明以て止まるは、人文じんぶんなり。天文てんもんを観て、以て時の変を察し、人文じんぶんを観て、以て天下を化成かせいす。

ある企業の新人研修に招かれた老易学者が、
未来のリーダーを担うポストZ世代の若者たちに向かって語る

この「」という字、皆さんあまり見たことがないのではないでしょうか? 私も最初はそうでした。この字は「飾る」という意味を持っています。でも、ただ飾るだけではなく、「飾り過ぎない」という意味も含んでいるんです。これって、なんだか人生にも通じる深い意味を感じませんか?

さて、この卦が教えてくれることを、現代の視点から考えてみましょう。

まず、「天文を観て、時の変化を察する」という部分があります。これは何を意味しているのでしょうか?

皆さんは空を見上げたことがありますよね。朝には朝日が昇り、夜には月や星が輝きます。春には桜が咲き、秋には紅葉が美しく色づきます。これらの自然の移り変わりを、私たちの先人は「天文」と呼んだのです。

例えば、農業を営む人々にとって、この天文を読み取る能力は非常に重要でした。いつ種をまき、いつ収穫するか。これを間違えると、その年の収穫に大きな影響を与えてしまいます。

ビジネスの世界でも同じことが言えるでしょう。市場の動向、技術の進歩、社会の変化。これらを敏感に感じ取り、適切に対応できる人が成功するのです。

次に、「人文を観て、天下を化成する」という部分について考えてみましょう。

「人文」とは、人間が作り出した文化や文明のことです。例えば、芸術、科学、哲学、そして私たちが日々使っているスマートフォンやコンピューターなども、全て人文の一部と言えるでしょう。

「天下を化成する」とは、これらの人文を観察し、理解することで、世の中をより良いものに変えていくことを意味します。

ここで重要なのは、単に新しいものを作り出すだけではなく、それが本当に世の中のためになるかどうかを見極める目を持つことです。技術は日々進歩していますが、それが本当に人々の幸せにつながっているでしょうか? この問いかけは、現代の私たちにとって非常に重要な課題だと思います。

さて、ここで興味深い例を挙げてみましょう。皆さんはスティーブ・ジョブズをご存知でしょうか? 彼は単に技術的に優れた製品を作っただけではありません。人々が本当に求めているものは何か、それをどのような形で提供すべきかを深く考え、実践しました。これは正に「人文を観て、天下を化成する」ことの現代版と言えるのではないでしょうか。

ここで、「賁」の持つもう一つの意味、「飾り過ぎない」ということについて考えてみましょう。

文化や文明の発展は、確かに私たちの生活を豊かにしてくれます。しかし、それが行き過ぎると、かえって本質を見失ってしまう危険性があるのです。

例えば、SNSの普及により、私たちは世界中の人々と簡単につながることができるようになりました。これは素晴らしい進歩です。しかし同時に、リアルな人間関係が希薄になったり、自分の生活を他人と比較して不幸を感じたりする人も増えています。これは文明の発達が行き過ぎた結果と言えるかもしれません。

ビジネスの世界でも同じことが言えます。新しい製品やサービスを次々と開発することは大切です。しかし、それが本当に顧客のニーズに応えているのか、社会に貢献しているのかを常に問い直す必要があります。

ここで、私の経験を少し共有させてください。

私が若い頃、会社の業績を上げることだけに必死でした。新しい製品を次々と開発し、マーケティングに莫大な予算をかけました。確かに、短期的には業績は上がりました。しかし、そのうち従業員の疲弊や、環境への悪影響といった問題が出てきたのです。

その時、私はこの「山火賁」の教えを思い出しました。「飾り過ぎていないか?」「本当に必要なものを作っているのか?」と自問自答したのです。

その結果、会社の方針を大きく転換しました。製品の数を絞り、品質と顧客満足度の向上に力を入れました。従業員の働き方も見直し、ワークライフバランスの改善に取り組みました。

最初は業績が落ち込むのではないかと心配しましたが、結果は予想外でした。従業員のモチベーションが上がり、顧客からの信頼も高まりました。長期的に見れば、これが会社の持続的な成長につながったのです。

この経験から私が学んだのは、「バランス」の重要性です。進歩と伝統、革新と安定、拡大と集中。これらのバランスを取ることが、真の意味での成功につながるのだと確信しています。

さて、ここまでお話ししてきて、皆さんはどのように感じられたでしょうか?

「天文を観る」こと。これは、皆さんの周りで起こっている変化に敏感になることです。技術の進歩、社会の変化、人々の価値観の移り変わり。これらをしっかりと観察し、理解することが大切です。

そして「人文を観る」こと。これは、人間が作り出したものの本質を見極める目を養うことです。新しい製品やサービス、システムが本当に人々の幸せにつながるのか。それとも、かえって問題を引き起こすのか。こういった視点を持つことが重要です。

最後に、「飾り過ぎない」こと。これは、本質を見失わないということです。新しいものを追い求めるあまり、大切なものを忘れてはいないでしょうか? 時には立ち止まって、本当に必要なものは何かを考える。そんな姿勢が求められているのです。

皆さんは、これからの時代を担う若いリーダーたちです。技術は日々進歩し、社会は急速に変化しています。そんな中で、この「山火賁」の教えは、皆さんに重要な指針を与えてくれるのではないでしょうか。


参考出典

天文と人文
「天文」とは日月星辰じつげつせいしん、春夏秋冬など、天の描く美しい文様。「人文」は文化・文明。天文の動きを観て、時の変化を察し、人文を観察して、物事のあり方や秩序をどう育成すべきかを考えるということ。山火賁の「賁」は、飾る、飾り過ぎない、という意味。文化・文明は人間社会の飾り物であり、その発達によって一つの完成に至るが、発達し過ぎると実質が空になり崩壊に至ることになる。

易経一日一言/竹村亞希子

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