まいにち易経_1004【進退のタイミングを見極める】戸庭を出でずとは、通塞を知ればなり。[60䷻水沢節:初九]
初九。不出戸庭。无咎。 象曰。不出戸庭。知通塞也。
ある企業の新人研修に招かれた老易学者が、
未来のリーダーを担うポストZ世代の若者たちに向かって語る
まず、『節』という言葉から始めましょう。ここでいう『節』は、竹の節のことを指しています。竹を思い浮かべてみてください。まっすぐに伸びる姿、そして一定の間隔で現れる節。この竹の成長の仕方が、実は私たちの人生や仕事の進め方にとても似ているのです。
竹は節と節の間で伸びていきます。この伸びている部分を「通」、節の部分を「塞」と呼びます。「通」の時期は、物事が順調に進む時。そして「塞」の時期は、一旦立ち止まって考える時だと言えるでしょう。
ここで皆さんに質問です。人生や仕事において、常に前進し続けることは可能でしょうか?そして、それは望ましいことなのでしょうか?
実は、常に前進し続けることは不可能であり、また望ましくもないのです。なぜなら、私たちには休息や内省の時間が必要だからです。それは丁度、竹が節を作りながら成長していくのと同じです。
例えば、マラソンランナーを思い浮かべてみましょう。彼らは42.195キロを走り続けるわけではありません。途中で水分補給をしたり、呼吸を整えたりします。これが「塞」の時期です。そして再び走り出す。これが「通」の時期です。このリズムがあるからこそ、長距離を走りきることができるのです。
ビジネスの世界でも同じことが言えます。新製品の開発を例に取ってみましょう。アイデアを出し、プロトタイプを作る。これが「通」の時期です。そして、そのプロトタイプをテストし、フィードバックを得る。これが「塞」の時期です。このサイクルを繰り返すことで、より良い製品が生まれていくのです。
さて、ここで重要なのは、この「通塞」のリズムを理解し、それに従って行動できる人になることです。易経では、そういう人を「節を知る者」と呼んでいます。
「節を知る者」は、家から一歩も出なくても世の中の動きを理解できると言われています。これは決して、引きこもりになれということではありません。むしろ、静かに観察し、深く考えることの重要性を説いているのです。
現代の私たちに置き換えて考えてみましょう。今、私たちはスマートフォンやインターネットを通じて、世界中の情報にアクセスできます。しかし、ただ情報を集めるだけでは意味がありません。その情報を咀嚼し、自分の知恵に変えていく時間が必要なのです。これが「塞」の時期の重要性です。
「節を知る者」は、この「通塞」のリズムを楽しむことができます。これは非常に重要な点です。なぜなら、人生には上昇期も下降期もあり、それらを受け入れ、そこから学ぶ姿勢が大切だからです。
例えば、ガーデニングを趣味とする人を想像してみてください。春に種を蒔き、夏に花が咲く。これが「通」の時期です。そして秋になり、葉が落ち、冬を迎える。これが「塞」の時期です。しかし、真のガーデニング愛好家は、この冬の時期も楽しみます。なぜなら、この時期こそ、来年の庭のデザインを考えたり、新しい植物の知識を学んだりする絶好の機会だからです。
ビジネスの世界でも同じことが言えます。好景気の時は事業を拡大し、不景気の時は内部の効率化を図る。このように、状況に応じて柔軟に対応できる能力が、真のリーダーには求められるのです。
ここで、中国の古典『老子』の言葉を紹介したいと思います。「戸を出でずして天下を知る」というものです。これは、先ほどの「節を知る者」と同じ意味を持っています。つまり、外に出て奔走するよりも、静かに観察し、深く考えることの方が、世の中の本質を理解できるという教えです。
現代の経営者に当てはめると、どういうことになるでしょうか。例えば、常に外部の情報に振り回されるのではなく、自社の強みや弱みをじっくりと分析する。そして、その分析に基づいて戦略を立てる。これが「戸を出でずして天下を知る」ということの現代版と言えるでしょう。
さて、ここまでの話をまとめてみましょう。
人生には「通」の時期と「塞」の時期がある。
「通」の時期は前進の時、「塞」の時期は内省の時。
この両方の時期を理解し、それぞれを適切に活用できる人が「節を知る者」。
「節を知る者」は、この「通塞」のリズムを楽しむことができる。
深い観察と思考によって、世の中の本質を理解することができる。
この「通塞」の考え方は、仕事だけでなく、私生活にも適用できます。例えば、人間関係においても、常に活発なコミュニケーションを取り続けるのではなく、時には一人で静かに過ごす時間も大切です。それによって、自分自身や周りの人々のことをより深く理解できるようになるでしょう。
参考出典
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