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まいにち易経_0710【言語を慎み、飲食を節す】君子以て言語を慎み、飲食を節す。[27䷚山雷頤:象伝]

君子以愼言語。節飲食。

君子以て言語をつつしみ、飲食を節す。

君子は言葉を慎んで美しい徳を育み、飲食を節制して健康な身体を養うべきである。

ある企業の新人研修に招かれた老易学者が、
未来のリーダーを担うポストZ世代の若者たちに向かって語る

まず、「頤」という字について、ご説明しましょう。
これは「あご」や「くち」を意味する漢字です。私たちの顔の中でも、とても重要な部分です。食べ物を口に入れるのも、言葉を発するのも、この「頤」の働きがあってこそです。

さて、この「山雷頤」の教えの核心は、「養う」ということにあります。でも、ここでいう「養う」というのは、単に体を育てるという意味だけではないんです。もっと広い意味があります。

具体的に言うと、二つの大切なポイントがあります。

一つ目は、「言葉を慎んで徳を養う」ということ。
二つ目は、「飲食を節して体を養う」ということです。

これは、言い換えれば、「口から入れるもの」と「口から出すもの」の両方に気をつけなさい、ということなんですね。

まず、「言葉を慎んで徳を養う」について考えてみましょう。

皆さんは、言葉の力というものを感じたことがありますか?例えば、誰かに「ありがとう」と言われて嬉しくなったり、逆に、きつい言葉を投げられて傷ついたりした経験はないでしょうか。

言葉には、人の心を動かす不思議な力があります。だからこそ、私たちは言葉の使い方に十分注意を払う必要があります。

特に、これからリーダーとして活躍していく皆さんにとって、この「言葉を慎む」という教えは極めて重要です。なぜなら、リーダーの言葉は、組織全体に大きな影響を与えるからです。

例えば、ある会社の社長が、社員の前で「うちの会社はもうダメだ」なんて言ったらどうなると思いますか?社員のやる気は失せてしまうでしょうし、会社の雰囲気も悪くなってしまうかもしれません。

逆に、「皆さんと一緒に、この困難を乗り越えていきましょう!」と前向きな言葉をかければ、社員の方々も勇気づけられ、一丸となって頑張ろうという気持ちになるかもしれません。

このように、リーダーの言葉一つで、組織全体の空気が変わってしまうんです。だからこそ、言葉の重みをしっかりと理解し、慎重に、そして思慮深く言葉を選ぶ必要があります。

ここで、ちょっとした豆知識をお話しさせていただきます。聖書の中に、イエス・キリストのこんな言葉があります。

「口に入るものは人を汚すことはない。かえって、口から出るものが人を汚すのである」(マタイによる福音書15章11節)

これは、まさに「山雷頤」の教えと同じことを言っているんですね。世界中の様々な教えの中に、こうした共通点を見出すのも面白いものです。

さて、次に「飲食を節して体を養う」という点について考えてみましょう。

これは、単に「食べ過ぎるな」とか「お酒を飲み過ぎるな」という表面的な意味だけではありません。もっと深い意味があります。

私たちの体は、日々摂取する食べ物や飲み物によって作られています。「You are what you eat(あなたは食べたものでできている)」という言葉をご存じでしょうか?これは、私たちが口にするものが、そのまま私たちの体を作っていくという意味です。

だからこそ、「何を」「どれだけ」食べるかということは、とても大切なんですね。栄養バランスの取れた食事を適量取ることで、健康な体を維持し、日々の活動に必要なエネルギーを得ることができます。

特に、リーダーとして活躍していく皆さんにとって、自分の体調管理はとても重要です。なぜなら、リーダーの体調不良は、組織全体に影響を与えかねないからです。

例えば、大切なプレゼンテーションの前日に飲みすぎて二日酔いになってしまったら……。きっと、最高のパフォーマンスは発揮できないでしょう。その結果、チームの士気が下がったり、ビジネスチャンスを逃したりするかもしれません。

ある会社で、二人の部長がいたとします。一人は健康に気を使い、バランスの取れた食事と適度な運動を心がけている部長A。もう一人は、仕事熱心ではあるものの、不規則な生活と偏った食生活を送っている部長Bです。

部長Aの部署では、部長自身が元気に働き、部下たちにも適切な休憩や食事の大切さを伝えています。その結果、チーム全体の生産性が高く、長期的に安定した成果を出しています。

一方、部長Bの部署では、部長自身が度々体調を崩し、重要な会議を欠席することもあります。部下たちも上司の働き方を見習って無理をしがちで、短期的には成果が出ることもありますが、長期的には燃え尽き症候群に陥る社員が続出し、部署全体の生産性が低下してしまいました。

このように、リーダー一人の生活習慣が、組織全体に大きな影響を与えることがあります。

さて、ここまでお話ししてきて、皆さんはある疑問を持ったかもしれません。

「言葉を慎む」というのは分かる。でも、リーダーとして強いメッセージを発信することも必要じゃないか?
「飲食を節する」というのも理解できる。でも、取引先との会食や、チームの懇親会だってあるだろう?

その通りです。ここで大切なのが「バランス」なんですね。

「山雷頤」の教えは、決して極端な禁欲主義を説いているわけではありません。むしろ、適切な「量」と「質」を考えることの重要性を教えているんです。

言葉で言えば、時と場合に応じて、励ましの言葉、叱咤激励の言葉、感謝の言葉など、適切な言葉を選んで使うこと。そして、その言葉が相手にどのような影響を与えるかを常に考えること。これが「言葉を慎む」ということの本質です。

飲食に関しても同じです。健康的な食生活を基本としつつ、時には楽しく会食をしたり、お酒を楽しんだりすることも大切です。ただし、それが習慣化して体調を崩すようなことがあってはいけません。「節する」というのは、完全に断つことではなく、適度にコントロールすることです。

このバランス感覚こそが、真のリーダーシップに繋がるんですね。

最後に、この「山雷頤」の教えを現代的に解釈すると、こんなことが言えるかもしれません。

  1. 自己管理の重要性:
    言葉と食事、つまり「口から出るもの」と「口に入れるもの」をコントロールすることは、自己管理の基本です。自分をコントロールできない人が、他人や組織をリードすることはできません。

  2. 影響力の認識:
    リーダーの言動は、想像以上に大きな影響力を持っています。その影響力を正しく認識し、責任を持って行動することが求められます。

  3. 長期的視点:
    目先の利益や満足だけでなく、長期的な影響を考えて行動することの大切さを教えています。健康も人間関係も、日々の小さな積み重ねが大きな違いを生むんです。

  4. 全人的な成長:
    単に仕事のスキルだけでなく、人格や健康も含めた全人的な成長の重要性を説いています。バランスの取れたリーダーこそが、真の尊敬を集めるんです。

いかがでしたでしょうか? 「山雷頤」の教えは、何千年も前の中国で生まれたものですが、現代のビジネスリーダーにとっても、とても重要で実践的な智慧だと思います。

皆さんがこれからリーダーとして歩んでいく中で、この「言葉を慎んで徳を養い、飲食を節して体を養う」という教えを思い出してくれたら嬉しいです。そして、それを実践することで、周りの人々からも信頼され、組織全体をよりよい方向に導いていけると信じています。

今日のお話が、皆さんの人生に少しでもプラスになれば幸いです。これからの皆さんの活躍を、心から楽しみにしています。


参考出典

言語を慎んで徳を養い、飲食を節して体を養う。
言語も飲食も、量と質を考えなくてはならない。暴言は人間関係を損ない、暴飲暴食は健康を損なう。言語・飲食ともに程良く慎み、節することが大切である。
山雷頤の卦は「養う」ことを説いている。「頤」は顎、口であり、食べ物を入れ、また言葉を発する場所である。

易経一日一言/竹村亞希子



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