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まいにち易経_0701【《機》を自在に用いる】天に先立ちて天違わず、天に後れて天の時を奉ず。しかるをいわんや人においてをや。[乾為天/文言伝:第六節九五]

先天而天弗違。後天而奉天時。天且弗違。而況於人乎、況於鬼神乎。

天にさきだちて天たがわず、天におくれて天の時をほうず。天すら且つ違わず、しかるをいわんや人をおいてをや、いわんや鬼神においてをや。


無私の心を持つ大人の徳は天地の徳と同じく高貴であり、その知恵は太陽や月の輝きに匹敵する。大人がもたらす秩序は四季の巡りのように整然としている。その行動が天理を理解し従っているならば、天の法則から外れることはない。天ですら大人の行動に逆らうことはなく、ましてや人や鬼神(=陰陽の気の作用)が大人に逆らうことなどできるはずがない。

ある企業の新人研修に招かれた老易学者が、
未来のリーダーを担うポストZ世代の若者たちに向かって語る

まず、易経が教えてくれる大切なことは、「天の時」を理解し、それに従うことです。
「天の時」とは何でしょうか?
簡単に言えば、自然の流れ、物事の適切なタイミングのことです。例えば、春に種を蒔き、夏に育て、秋に収穫し、冬に休養する。この自然のサイクルは、私たちの人生や仕事にも当てはまります。

皆さんは、スマートフォンの天気予報アプリを使ったことがあるでしょう。これは現代版の「天の時」を知る道具と言えます。天気予報を見て、雨が降りそうだから傘を持っていく。これは「天の時」に従う行動です。同じように、社会や市場の「天気」を読み取り、適切に行動することが大切なのです。

ここで、私が若い頃に経験した失敗談をお話ししましょう。新製品の開発に携わっていた時のことです。私は自信満々で、「これは絶対に売れる!」と思い込んでいました。しかし、市場の「天気」を読み違えていたのです。景気後退期に高価格商品を投入してしまい、大失敗。この経験から、自分の思い込みだけでなく、周囲の状況をよく観察することの重要性を学びました。

易経は、私心なく物事を客観的に見ることの大切さも教えています。これは、現代で言えばアンコンシャス・バイアスunconscious bias(無意識の思い込み)を取り除くことに通じます。自分の価値観や経験だけでなく、多様な視点を取り入れることで、より良い判断ができるのです。

例えば、チームで新しいプロジェクトを始める時、メンバー全員の意見を聞くことが大切です。年齢や経験に関係なく、それぞれの視点から見た「天の時」があるかもしれません。若手の斬新なアイデアと、ベテランの経験に基づく慎重さ。この両方のバランスを取ることで、より良い結果に繋がるでしょう。

さて、易経は「時に後れても天の理に従い行えば、道を外れない」とも言っています。これは、自分のペースを大切にすることの重要性を示しています。SNSを見ていると、周りの友人や知人の華々しい活躍に焦ることもあるでしょう。しかし、人それぞれに「天の時」があるのです。

ここで、植物の成長を例に考えてみましょう。タンポポは春に一斉に咲きますが、サボテンは何年も水をためて、やっと一度だけ花を咲かせます。どちらが正しいというわけではありません。それぞれの植物に適した「天の時」があるのです。同じように、人生にも一人ひとり異なる「天の時」があります。

私の友人に、30代後半でキャリアチェンジした人がいます。周りからは「今さら」と言われましたが、彼は自分の「天の時」を信じて行動しました。結果、新しい分野で大きな成功を収めています。つまり、「遅い」と思っても、本当にやりたいことがあれば、その「天の時」に従って行動することが大切なのです。

易経はまた、「機を掴む」ことの重要性も説いています。「機」とは、チャンス、好機のことです。しかし、この「機」は突然現れるものではありません。日頃から周囲をよく観察し、準備をしておくことで、初めて「機」を掴むことができるのです。

例えば、ある起業家は、毎日30分、様々な分野のニュースを読む習慣がありました。ある日、全く異なる2つの記事からインスピレーションを得て、革新的なビジネスアイデアを思いつきました。これは、日頃の観察と準備が「機を掴む」ことに繋がった好例です。

皆さんも、自分の興味のある分野だけでなく、幅広い知識を得る習慣をつけてみてはどうでしょうか。そうすることで、思わぬところに「機」が隠れていることに気づくかもしれません。

易経の教えは決して古臭いものではありません。むしろ、今の時代だからこそ、その重要性が増しているのです。情報があふれ、変化の激しい現代社会。だからこそ、「天の時」を読み取り、私心なく物事を見る目が必要なのです。

AI技術の発展を例に考えてみましょう。AIの進化は、まさに「天の時」と言えます。これに抗うのではなく、どのように共存し、活用していくかを考えることが大切です。同時に、AIにはない人間らしさ、創造性、共感性を磨くことも忘れてはいけません。

皆さんがこれから歩む道は、決して平坦ではないでしょう。時には壁にぶつかることもあるでしょう。そんな時こそ、易経の教えを思い出してください。自分は今、「冬に種を蒔く」ようなことをしていないだろうか。「夏が終わろうというのに、まだ伸びよう」としていないだろうか。立ち止まって考えてみることで、新たな道が開けるかもしれません。

最後に、私の座右の銘を皆さんと共有したいと思います。「流れに逆らわず、しかし流されず」。これは、まさに易経の教えを一言で表したものです。自然の流れ、社会の変化を読み取りながらも、自分の軸をしっかり持つ。これが、これからのリーダーに求められる姿勢ではないでしょうか。

皆さんには無限の可能性があります。自分の「天の時」を信じ、しっかりと観察し、準備をし、そして勇気を持って行動してください。きっと素晴らしい未来が待っているはずです。

今日の話が、皆さんの人生の指針の一つになれば幸いです。これからの皆さんの活躍を、心から楽しみにしています。


参考出典

私心なく物事を客観視するならば、時の兆しを観て、先立って行動しても、天の時とぴったり順応する。また時に後れても天のことわりに従い行えば、道を外れない。天の時さえ違わないならば、人はいうまでもなくその行いに従う。
「天の時」は、わかりやすくいうと春夏秋冬の循環のこと。易経は四時しいじ(春夏秋冬)をよく見て、それに習い、従いなさいと繰り返し説く。人生にも物事にも、天の時、天の理に従ったしかるべき順序がある。
しかし、人は欲や私情によって、物事の順序、情理を見失いがちである。何か問題が起きた時、壁にぶつかった時には、冬に種を蒔くようなことをしていないか、夏が終わろうというのに、まだ伸びようとしていないか、しかるべき順序に従っていたかどうかを考えてみることだ。それができてはじめて、「」を掴み、「機」を自在に用いることができる。

易経一日一言/竹村亞希子

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