前夜祭

想イヲツヅル #69



色男は言っていた

「あぁーあの子?」

「そうそう」
「あの子の家に行って一緒に映画観たよ」

「でもだめだありゃ」
「なんか違った」

「″男″として見られてない感じでさ」

「隣にいても″絶対恋愛にはならない″っていう気持ちを突き付けられてるみたいだった」

「無理無理」
「もう諦めたよ」


少し悔しそうに笑いながら


色男はしたたかに

もう″次″に目を向けていた




友人は言っていた

「申し訳ないことをした」

「あの子が可哀想になってしまったんだ」


そう言って

弱々しく球を突いていた



この前
友人をビリヤードに誘って

2人で球を突きながら

友人と君のことを話してきたんだ


いつもは口達者で楽しげにしている友人も

この日ばかりは

今までに見たこともないような
俯いた表情をして

しょぼくれて萎んで
ひとまわり小さくなっているように見えた


「悪いことをした」
「ごめん」

何度もそう話す友人だったが

なぜ君に告白をしたのか

その本当の理由でもある

″友人は君に恋をしていたのか″

というところはわからないままだった


友人は今も
付き合っている彼女との関係を続けているし

その彼女と別れるつもりもないらしい


″あの子(君)が可哀想だったから″


の理由も腑に落ちそうではあったが


ギリギリ落ちそうなところで

″僕に彼女がいることを話すこと″


わかっても

″友人までも君に告白をする″

というところが落ちきれずに


宙にブラブラと浮いて
音も立てずに揺れていた



ただ

確実に間違えていたのが自分なのはわかっている


今までも友人に君のことを相談はしていたし

もし
その時から友人も君に惹かれていたのなら

友人は苦しい思いをしていたのかも知れない

そもそも
僕に対して腹を立てていたのかも知れない


それでも


それでも
「がんばりなよ」って

心で唇を噛みながら

僕を支えようとしてくれていたのかも知れない



だけれど
友人の″気持ち″も限界になって
心のコップの水が
きっと
溢れてしまったんだろう


今も″友人の本当″とは出逢えていないけれど

僕にとって
今でも友人は
大切な友人なんだ


自分の気持ちも
全部理解できないのに

誰かの気持ちを全部わかろうとすることは傲慢だ


友人のとった行動も

友人の気持ちも

全部わからなくてもいい

わかるはずもない

だからこそ

何より

友人の気持ちに
優しさに
少しも気付いてあげられなかったことが

悔しくて仕方がなかった



そして

僕と友人はまた友情を″仕切り直す″ように


「ったくびっくりしたんだからな」
「ここ奢ってくれたら今回のことはチャラね」


僕が笑いながら言うと

「いいの?」
「よし!奢る!」


悪くもない友人が嬉しそうに
ビリヤード代を奢るのだ


″今度の焼肉は僕が奢ってあげよう″


そして僕は今
そんなことを思っている


僕は
友人まで″僕のせい″で失いたくなかった



そして
気付けば


いつの間にか
明日はもうクリスマスなんだな


友人も言っていたが

″あの日″以来

友人も君と連絡が取れないらしい


僕も君からの返事をずっと待っている



今はもう

月を見ても

何をしていても

夢の中でも

君が僕に逢いにくる


ただ返事だけが来ない


職場では他人行儀で挨拶をするだけ

こんな時期だし

職場の食事会で会う事もない

僕の歌は届いたのだろうか


配信は観てくれたのだろうか



君は今
どうしているんだろう

今年の夏には想像もしなかった

クリスマスが来るよ

痛いほど冷たい
都会の風のような

光だけが鮮明に
心を透かすようなクリスマスが来るよ


なんて
いつものように君を想っては

黄昏ながら

彼女と別れたことを告げてから
送っていなかった

君とのラインを開いて


「メリークリスマス」


だけ君に送ってしまう


そして

たった今


「メリークリスマスイブでしょ」


君から
待ち侘びた

本当に待ち侘びた

君の″声″が届くのである

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