地理旅#3「インド編~墓に響く罵声」
五感ダイレクトアタック
朝食はバナナとインド定番のチャイ(お茶)。こちらの屋台では1杯16円なり。旧イギリス植民地のインド、特に北部ではコーヒーよりチャイが広く飲まれている。ジンジャーが効いていて、クセになる味わい。熱帯のインドでは、食欲や消化の増進、胃腸を守るためにスパイスが欠かせない。
僕が見たインドは、とにかく五感への刺激が途切れることのない世界だった。刺激的な食べ物・飲み物はもちろん、スパイスと排気ガスと後は何だか良く分からない香りのマリアージュ、あいさつ代わりのエンドレス・クラクション、ドカラフルな神様たち・・・。今まで眠っていた感覚が全力で叩き起こされる。
閑話休題、腹ごしらえして、首都・デリーを飛び出し車で南へ3時間。向かったのは、アグラ。ハイライトは、この街にある「世界で一番美しい墓」と名高いタージ・マハル。
アグラまで運転してくれたドライバーのハリッシュは、とてもフランクなナイス・ガイ。ただ、喉からっからになって水買ったのに、気付いたら彼に飲み干されてたけど。ハリッシュって神様の名前らしいけど。それアリっすかー!
浜松に想いを馳せる
ともかく、タージマハルに着くと、現地人の入場料40倍の1250ルピー(約2200円)を払う。これは40倍楽しまねば・・・。入り口は男女別。しばらく進むと、白亜の廟殿が広がる。
その姿たるや、思わず息を呑む。1653年、ムガール帝国の5代皇帝シャー・ジャハーンが亡き妻のために完成させたという。そんなロマンチックなお墓も、人口爆発による大気汚染が原因で黄ばみがヒドく、僕が訪れたあとで大規模なクリーニングが施されたらしい。
それでも、世界一の墓にうっとり見とれていると、次の瞬間、見覚えのある地名が。
・・・いやいやいや、なんでタージマハルに浜松Tシャツの兄ちゃん!
何かの偶然かと思ったが、インドの自動車シェアNo.1は、40年以上にわたってインド·マルティと日本・スズキの合弁会社「マルティスズキ」なのだ。そして、スズキ自動車の本社が所在するのが静岡県浜松市にある、という話である。ということは、インド人にとって、HAMAMATSUは超クールなのか・・・!
浜松兄ちゃんと意気投合したときにふと思ったんだけど、そのTシャツの山って富士山・・・?あれ?そんなに大きく見えたっけ、浜松から・・・。謎は解けぬままである。
ちなみに、2021年に韓国のKIA(起亜)が抜き、マルティスズキは首位陥落した。あの浜松兄ちゃんは、今でもTシャツを着てくれているだろうか・・・。
墓に響く罵声
白亜のタージ・マハル本殿、霊廟への入口は大行列。仕方なく列の最後尾に並んでいると、急に罵声が響く。どうやら前方で誰かが列に横入りしたらしい。あー・・・取っ組み合いになっている。
次の瞬間。他の人も便乗して「我先に!」と、列が一瞬のうちに崩れて入口付近はモミクチャに。必死に抵抗するガードマンもなぎ倒され、タージ・マハルは無法地帯と化した。おいおい、お墓でそう競うなよ~という気持ちにもなったが、ここは人口13億人のインド。自己主張しないと、埋もれてしまうのかもしれない。
「らしさ」というラベルを貼って一般化すべきではないし、〇〇人論自体も怪しいものである。東京大学の高野陽太郎教授は、心理学の実証研究から、「人間は文化よりも状況によって大きく左右されることを示している」と述べている。
とはいえ、国や地域独特のことわざや民話などの伝統的な教え、家庭や学校での教育によって、人間は無自覚のうちに「思い込みという名の常識」を背負わされていることも事実であろう。もちろん、悪いことばかりではないのだが。
例えば、日本では「人に迷惑をかけないように生きなさい」と親や先生からしつけられることが多いが、インドでは、次のように教わることがあるという。
そう言えば、勝手に水を飲まれたり、順番を抜かされたりしても、「ここはインドだから~」と妙に納得してしまったのも事実だ。僕たちは、似てる人に対してこそ、自分の「べき論」を押し付けがちであるような気がする。でも、本当はインド人だろうが、身近な家族や友人であろうが、「他者」であることには変わりない。
元来、僕はわりと几帳面でマメな性格だったのだが、インドを訪れた後は、なんかどうでも良くなってしまった(笑)「まぁなんとかなるでしょ」「細かいことを気にしてもしょーがない」良くも悪くも、そういう心持ちになったと思う。
「インドに行って人生変わった?」と聞かれたら、「そんなベタな~」と言い返したいところだが、変えられてしまったことは否めない。だって、常識ブチ壊されるんだもん。
さて、世界一の墓を目に焼き付けて、いよいよ「旅学」に見開きで映し出されていた、ヴァラナシの景色を目指す。
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