瑠璃

小説、脚本、コラムなどを中心に活動中。 私が感じたことや調べたことなどを随筆や小説と…

瑠璃

小説、脚本、コラムなどを中心に活動中。 私が感じたことや調べたことなどを随筆や小説として綴りながら発信していきます。 どうぞお付き合いをお願いいたします。仕事のご依頼はこちらへ 《 rurijpwr@gmail.com 》

マガジン

  • 瑠璃の「ちょっと怖いお話」

    意外とホラー映画好きの側面もあります。広義な「怖いお話」のマガジンです。

  • 短編小説の森

    私が書いた短編小説たちの倉庫です。カテゴライズしたマガジンにある作品も、全てここに集めています。   ※五十音順に掲載

  • ショート・ショート&掌編小説ほか

    私が書いたショート・ショート&掌編小説などのマガジンです。 小説以外のシノプシスなどもこちらにまとめていきます。

  • 『12星座の恋物語』シリーズ ー好評12作品―

    連載していた『12星座の恋物語』シリーズの中から、特に好評をいただいていた12作品を加筆修正して再度アップしました。作品のみを楽しんでいただくために、今回は星座の設定と解説ははぶいております。感想などコメントいただけると嬉しいです。

  • Essay ~瑠璃の徒然なるままに~

    日記は『蘚苔亭日乗』にしたので、その他の思索や意見、感想などは、こちらにまとめていきます。 エッセイとするのはおこがましいのですが、私の体験や考えをその時々の自由な形式の文章で、徒然なるままに書いていきます。

最近の記事

  • 固定された記事

海と瑠璃の境界 [短編小説]

 凪いでいた。あの日のように、とても穏やかな海だ。車内にも潮の香が満ちていて心地よい。五年前に訪れた時は、助手席の窓から眺めた伊豆の海が、視界の左側いっぱいに広がっていた。 「まるで青い畳を敷いたみたいだろ?」  瑞希の左耳に、啓一郎の懐かしい声が響く。それは思い出の中の一場面だ。素敵な表現だと褒めたら、実は山本周五郎の小説で見つけた言葉なのだと、すぐに種明かしをした。自分で考えた事にしてしまえばいいのに、それをできない啓一郎がとても愛おしく思えた。  海を目にした瞬間から、

    • 西行と反魂の絵師② [連載時代小説]

       厚い雲に覆われた暗い夜空に、立て続けに稲妻が光った。恐ろし気な雷鳴が間近で轟き、雨が鬱蒼と茂った木々の葉を叩く音が周囲にあふれている。真人は怯える小さな獣のように、大木の幹に穿たれた洞の中で夜明けを待っていた。  瞼を固く閉じると頭の中に雷神の絵が浮かぶ。自分が何者であるかも判然としないのになぜ雷神の絵を知っているのか。真人には理由がわからない。  雷神ばかりではなかった。記憶が無数の絵として残っている。絵を生業にしていたからかもしれぬと西行法師は言っていた。  自分が反魂

      • 西行と反魂の絵師① [連載時代小説]

         穏やかな春の風が枕もとを吹き抜けていく。草庵の濡れ縁に面した障子戸は開かれ、軒先にはもうすぐ満開を迎えるであろう桜の老木が枝を揺らしていた。重い病の床にあった西行の脳裏には、通り過ぎた過去の光景が春霞のように浮かんでは消えていく。  この世に生を受けて七十二年。かつては北面の武士として武勇に秀で、和歌にも通じ、華やかな未来が約束されていた。それにもかかわらず二十二歳の若さで出家したのは、皇位をめぐる政争に失望したからでもあり、親友の不意の死に世の無常を感じたからでもある。以

        • さくら [掌編小説]

          「私の寿命を半分あげますから、お婆ちゃんを助けてください」  祖母が亡くなる数日前、見舞いに行った面会謝絶中の病室で懸命に祈った。もうすぐ小学校五年生になる早春の肌寒い夜だった。 「ひとは生涯に何回ぐらい桜をみるのかしら。ものごころつくのが十歳ぐらいなら、どんなに多くても七十回ぐらい…」  茨木のり子の詩が好きだった祖母は、十歳の私の顔を見るたびに、病室の窓から見える桜の木を眺めながら、よく有名な詩の一節を口にした。  祖母と出かけたお花見の思い出がよみがえる。せいぜい二度か

        • 固定された記事

        海と瑠璃の境界 [短編小説]

        マガジン

        • 短編小説の森
          42本
        • 瑠璃の「ちょっと怖いお話」
          2本
        • ショート・ショート&掌編小説ほか
          8本
        • 『12星座の恋物語』シリーズ ー好評12作品―
          12本
        • Essay ~瑠璃の徒然なるままに~
          1本
        • 長編小説
          2本

        記事

          誰も知らない [掌編小説]

           お爺さんは、いつも公園の片隅で煙草をくゆらせていた。ちょうど木漏れ日が降り注ぐ花壇の近くにお手製の小さな折り畳み椅子を置いて、ぼんやりと午後を過ごしている。首に巻いた真っ赤な手編みのマフラーが印象的なお爺さん。髪は真っ白で、初対面の時からかなりの高齢だろうとは思っていたけれど、実際には八十三歳だと後で知った。  お爺さんの名前は坂本源吾という。響きがとっても気にいって、ほどなく私は源吾さんと呼ぶようになった。広島県の生まれだそうだ。いつだったか、子供の頃に原爆の閃光を見たと

          誰も知らない [掌編小説]

          桜梅桃李 [SS]

           ひどく陰鬱な夢の終わりに、うなされながら目が覚めた。身体が芯から冷え切っている。起き上がると、少し湿ったベンチに横たわっていたのだと気づいた。理不尽な上司から度重なる叱責を受け、酔って街を彷徨った挙句に辿り着いた見知らぬ公園だった。  立ち上がると身体の節々が痛む。何軒梯子したのかも覚えていなかった。翌日が春分の日で休みだからと深酒をし過ぎてしまったのは明らかだ。  酔いはすっかり醒めている。かわりに喉の渇きが尋常ではない。乱れていたハーフコートを着直して、自動販売機でもな

          桜梅桃李 [SS]

          初恋桜 [SS]

           もうじき八十九歳の春が来る。君江は桜が仰げるように置かれた古びたベンチに腰をおろし、薄雲のかかった空を見上げながら、ゆっくりと背筋を伸ばした。足腰はだいぶ弱っているものの、シルバーカーを押しながらであれば、まだ近所のスーパーで買い物もできる。天気が良ければ必ずこうして昔働いていた駅の前を通ることにしていた。この駅前の桜の老木にも小さな蕾がついている。もうじき花を咲かせるはずだ。  君江がまだ十代の頃に植えられた桜だった。貧しい農家の長女として生まれ、ゆえに仕事がきつい農家

          初恋桜 [SS]

          雪の朝 [詩]

          目覚めた頃には ひとつふたつと舞い落ちていた粉雪が やがて視界を覆うほどの 大きな粒となって降りはじめた 新居から眺める街の景色が 徐々に姿を変えていく 街路樹 道端の花壇 線路わきの土手  月極駐車場に停められた乗用車  不規則に並んだ家々の屋根 夜の眠りの中で凍えきっていたものたちから まるで天からの恩恵の様に 白い真綿のような雪の衣をまとっていた   ふと 残してきたものたちが脳裏に浮かぶ   「くれぐれも身体には気をつけて」   怒るでも 罵るでも 泣くでもなく

          雪の朝 [詩]

          ゴーヤーの実がはじけたら [短編小説]

           どこかで目覚まし時計が鳴っていた。美鈴が眠っている枕元で鳴っているのではない。どこで鳴っているのか気になりだしたら、急速に意識が覚醒し始める。隣の部屋から聞こえてくる音だと気づいた時には、もうすっかり目が覚めてしまっていた。窓の外はまだうす暗いと思っていたが、腕時計を見ると八時を過ぎていた。  築三十年の安アパートは壁が薄い。とはいえ、これまで隣の住人が鳴らす目覚まし時計で目覚めたことは一度もなかった。久しぶりの休暇だから昼過ぎまで寝ていようと思っていたのに、何ということだ

          ゴーヤーの実がはじけたら [短編小説]

          小松菜 [詩]

          老婆はいつも施設の裏庭に種をまいた 古びた袋には かすれた文字で小松菜と書かれている ひとりにしてはおけないから 早く中に入ってと急かす私に 「収穫したら一緒に食べようね」 かならず彼女は笑ってそう言った 私が茹でると どこか筋っぽい小松菜 老婆は器用に茎と葉の境でポキっと折り倒す そのまま下に引きおろすと スルスルっと茎の筋がとれた 「ひと手間を惜しんじゃいけないよ」 そうだよね 本当にそうだと何度思ったことだろう 老婆とのお別れがあって 何度目かの冬 今夜の味噌汁の具

          小松菜 [詩]

          愛しき人 [短編小説]

           また誰かと勘違いしているのだろう。佐々木希美はお湯に濡らしたタオルで男性利用者の身体を拭きながら、そんなことを考えていた。短い昼寝の間に失禁したのだが、自らパットを引き出してしまったためか、上着までぐっしょりと尿で濡れている。とにかく早く着替えさせて、ラバーもシーツもすべて取り替える必要があった。老人の言葉にしっかりと受け答えしている暇はない。適当に相槌を打ちながら、手の動きを速めた。  今年で八十七歳になるその加藤という老人は脚が思うように動かせない。認知症もかなり進んで

          愛しき人 [短編小説]

          新年のご挨拶 2023

          新年のご挨拶 2023

          春の雨に傘はいらない [短編小説]

           本当に心の優しい人は、決して優しさの押し売りはしない。人の心のあり様について考える時、水野奈美には必ず思い出すエピソードがあった。  もう二十年ほど前になるだろうか。奈美はまだ小学生で、季節はちょうど今頃だ。塾からの帰りに自転車で家路を急いでいると、突然雨が降り出した。そのまま止まらずに帰りたい。そう思いペダルを踏み込んだ矢先に、目の前の信号が赤に変わる。  いろいろな事が重なっていた時期だった。学年が変わる直前の三月の終わり、父親の会社の倒産や両親の離婚で、奈美の周囲はざ

          春の雨に傘はいらない [短編小説]

          なごり雪 [短編小説]

           雪が降ると、初めて恋人として深くつき合った加藤俊輔のことを思い出してしまう。彼がよく連れて行ってくれた都心のビルの36階のレストランから、一緒に雪景色を眺めた日。雪が下へと落ちていく光景を二人で見つめながら、初めて人の目を気にせずにキスをした。  ずっと年上の男だった。私は大学を卒業したばかり。4月になれば社会人として働かなければならない。そんな、学生として最後の春休みを俊輔と過ごしていた最中に、あのなごり雪が降った。 「これからは会いにくくなるね」  長いキスの後で、彼は

          なごり雪 [短編小説]

          君の名を… [短編小説]

           中学生の頃、隣のクラスに原真紀というとても可愛いらしい女生徒がいた。同じクラスになった事もないし、部活も違ったので、友人でも何でもない。だが、名前と顔だけは今でもよく覚えている。その理由はなぜかというと卒業式にあった。  教室で出欠を取る時も、たいがいは名字を呼ばれるだけだ。だが、卒業式は誰もがフルネームで呼ばれる。それも、ゆっくりと独特の間合いをとった呼び方をするものなのだと、その時はじめて私も体験した。 「ハラ、マキ」  その日、体育館に教師の声が響き渡った途端、他のク

          君の名を… [短編小説]

          別れても好きな人? [短編小説]

           またLINEの着信音が鳴った。注文したランチがテーブルに届いたタイミングでだ。送ってきた相手が誰かはわかっている。丸顔で、見るからに人がよさそうな平山輝夫の顔が頭に浮かんだ。こういう勘ははずれたことがない。だから茉優はスマートフォンを見ないで、まずはしっかり昼食を食べることにした。 (昼の休憩時間を狙っているなら、いっそ電話してくればいいのに)  そう思いながらタルタルソースをたっぷりからめた鶏南蛮を頬張る。なぜか夏の終わり頃になると、無性に鶏南蛮が食べたくなった。食欲の秋

          別れても好きな人? [短編小説]