海と瑠璃の境界 [短編小説]
凪いでいた。あの日のように、とても穏やかな海だ。車内にも潮の香が満ちていて心地よい。五年前に訪れた時は、助手席の窓から眺めた伊豆の海が、視界の左側いっぱいに広がっていた。
「まるで青い畳を敷いたみたいだろ?」
瑞希の左耳に、啓一郎の懐かしい声が響く。それは思い出の中の一場面だ。素敵な表現だと褒めたら、実は山本周五郎の小説で見つけた言葉なのだと、すぐに種明かしをした。自分で考えた事にしてしまえばいいのに、それをできない啓一郎がとても愛おしく思えた。
海を目にした瞬間から、