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『ヌーヴォーとヴィンテージ』【#短編小説】

 ――むしろ『超短篇小説』かもしれない。
 っていうか、そうだね。
 1000文字すら行ってないです。


『ヌーヴォーとヴィンテージ』


「んーっ! うぉいしーっ!」

「『うぉいしい』の?」

「そ。ただの『美味しい』との差別化、的な?」

 食後のバニラアイスに舌鼓をうつ彼女の頬は、アイスよりもよく溶けていた。 

 お気に入りのそれは、乙女のなんとやらなどを考えた上で週3回を限度にしている。
 毎日食べるよりも喜びが大きくなるらしい。

「なによ。その顔」

「なにが?」

「その、子犬かなにかを見てるみたいな眼差しは何よ、って話」

 ちょっと恥ずかしくなったのだろう。
 あからさまな照れ隠しだった。

 ならば、ちょっとだけ追い討ちを――。

「その反応。見飽きないなぁ、って思って」

「……そう?」

 言いつつソファから立ち上がりキッチンへと向かう。
 そして、ワインボトルを適当にひとつチョイス。
 別にそんな高いものではない。

 なんとなく、その照れた顔をつまみにして飲みたくなったのだ。

「いつでも新鮮な気持ちでいられる。油断させてくれない人だなぁ、って」

「そりゃーね。私は引き出しが多いですから」

「ボジョレー・ヌーヴォーの評価みたいな?」

「あれは……、うーん、ちょっと微妙じゃない?」

 苦笑いする彼女に曖昧な笑みを返して、ワイングラスを満たす。
 ――正直、僕自身もこの例え方は7割くらい失敗だったと思う。

「はい」

「ありがと」

 ちょうどこの銘柄のようなさわやかな笑顔でグラスを受け取ると、すぐにひとくち。

「おいしっ」

「それもまた差別化の一種?」

「まぁね」

 そう言ってグラスを置くと、空になった腕で僕の腕を抱きしめてきた。
 まだ酔いが回っているわけでもないだろうに、なんて思っていると。

「だったら私は、今こうしてる時間も、いつかヴィンテージワインみたいな感じで楽しみたいわ。……ずっと、ね」

「……そうだね」

 ずっと。

 そう、ずっとだ。

 君との時間は、すべて等しく特別だ。

「でも、君のことだし、何年経っても僕にとってはヌーヴォーかもしれないけどね」

「それもまた一興じゃない?」

「違いない」

 きっと、そうだ。

 きっと、ずっと、君にはドキドキさせられっぱなしなんだ。






後書き。

 以前カクヨムにて公開(現在は諸事情により非公開)していた『好きな人に『好きだ』と言わずに『好きだ』と伝える短篇集』から。

 ま、たまにはイイでしょ。
 こういうのも。


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