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【小小説】ナノノベル

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2020年5月の記事一覧

ミス人間グランプリ

ミス人間グランプリ

「今年こそは」
 大丈夫と自分に言い聞かせる。
 誰にも負けなかったという自負があった。
 ルックスも、ウォークも、スピーチも、ダンスも。
 お芝居だって、誰よりも真に迫っていたはず。

「いよいよグランプリの発表です!」
 ドラムロールが興奮を高める。
 足を小刻みに震わせる者、目を閉じる者、両手を合わせて天に祈る者、今にも泣き出しそうな者、厳しい表情を保つ者。
 自分を信じて疑わない私……。

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早く寝ろ

早く寝ろ

「あんたまだ店開けてるの? 閉めないと駄目ですよ」
「やってられねえよ」
「ちゃんと閉めなさい」
「開けねえとやってらんねえっすよ」
「あんたのとこだけよ」

「私のとこは秘伝のタレがありますから」
「もうあんたのとこだけですよ」
「継ぎ足し継ぎ足し秘伝を守ってきたんです」
「もう捨てなさい」
「やってらんねえな」

「どうして早く閉めないの」
「私には守るべきものがあるんだい」
「守ったらいいの

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期待の商店街

期待の商店街

「何かうれしげね」
「そうかな」
「何を企んでいるんだか」
「マスクをつけてヨーロッパに行こうと思って」
「ちゃんと申請したの?」
「えっ?」

チャカチャンチャンチャン♪

「くださいと言わないと届かないのよ」
「そうなの」
「欲しい人は欲しいと声を上げる。いらないなら黙っておけばいい」
「知らなかった」
「もう、当たり前のことを言わせないで!」

チャカチャンチャンチャン♪

「急ぐなら小さな

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寿司道

寿司道

すぐに消えてすぐに現れる
儚い形が好きだった
消えたと思えば現れる
逞しい形が愛おしかった
チョコレート おかき
葡萄 キャンディー
猫 愛情 お話

「いらっしゃい」
古びた暖簾の寿司屋に
飛び込むのが好きだった

「へいお待ち! イカです」
はじめに頼んだのはイカ
シャリの上に伸びたイカ

「伸びがいいでしょう」
大将自慢のイカは皿から伸びて
店の外にまではみ出している
それは私の好みとは少し

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適材適所(満員御礼!)

「2名様ですか。
座敷へどうぞ! ご注文はパネルの方でお願いします。
奥2名様入りまーす!」
「3名様ですか。
奥の座敷へどうぞ! 続いて入りまーす!
おひとり様? 座敷へどうぞ! どうぞどうぞ!」
「はい。4名様、カウンターへどうぞ!
5名様、続いてカウンターの方へどうぞ!
詰めてお願いしまーす!
はい、ちょうどピッタリでーす!」
「お2人様? 座敷へどうぞ!
はい、席埋まりました!」

「満席

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春先ビッグ・フェア

春先ビッグ・フェア

 新生活応援フェアをやっているじゃないか。
 この季節はチャンスに乗っかって飛躍的な成長を遂げるチャンスだ。
……レジにて3倍……きみもビッグに!
(倍率は好きに選べます)
 よーし、ここは調子に乗って最大化だな。

チャカチャンチャンチャン♪

「おかわり!」
「あんたどうした?」
 まさか胃袋までも大きくなっているとは計算外だよ。
「全然満腹にならない」
「もう釜は空っぽだよ。出ていっておくれ

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