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美術せんにんの記録

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#美術

点描画が増えてきた!?「改組 新 第10回日展」

点描画が増えてきた!?「改組 新 第10回日展」

芸術の秋ということで、今年も日展の季節になった。
さて、今回はどんな素晴らしい作品に出会えるか。

日本画部門

この方は3回連続。特徴的な画風なので、すぐ目に留まってしまう。もはや殿堂入りか。加山又造っぽいところがあるので、琳派のように金箔・銀箔をふんだんに使った作品も見てみたい。

花の絵は、日本画の伝統を踏襲しているのだが、色の重ね方で奥行きを出しているところが印象的。色も重くならずに軽さが

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線が躍動している~五島美術館「古今和歌集を愛でる」

線が躍動している~五島美術館「古今和歌集を愛でる」

大型連休中はちょいと都心から離れた美術館へ。二子玉川にある五島美術館に訪れた。でもここもそこそこ混んでいたけれど。

ここが所蔵する書の作品は実に名品揃いなのだ。
まず出迎えてくれたのがこちら。

線は全体的に細めでところどころ太い箇所がアクセント。うねりも乏しいがそれが故に上品でまとまった印象を与えてくれる。このまとまり加減がとても好きなのである。

そして自分が一番好きなのが、三蹟の一人である

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がんばれ日本画!「改組 新 第9回日展」

がんばれ日本画!「改組 新 第9回日展」

今年も日展の季節になり、さっそく足を運んできた。

毎年このチラシを貼っているけど、相も変わらず。。次回からはもういいかな。

それでは、日本画部門・洋画部門それぞれで目に留まった作品を5点ずつ紹介していきたい。結果的にいずれもプロの方ばかりになってしまった気がする。

日本画部門

2003年と2008年の特選受賞者ということで、もはや大家の画家である。ということを後で知ったわけで。
水面や岩肌

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死生観と信仰~「アンディ・ウォーホル・キョウト」

死生観と信仰~「アンディ・ウォーホル・キョウト」

京都で開催中のアンディ・ウォーホルの展覧会に行ってきた。
関東圏に巡回するか分からなかったので、久々に京都まで足を伸ばしてみた。

ウォーホルの展覧会は8年前に東京でも開催されている。
当時の感想としては、キャッチーだけどなんだかよくわからないなあというものだったと記憶している。

今回の京都での展覧会は、当時と重なっている展示作品も少なくないようなのだが、コンセプトがかなり明確であった印象である

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疲れた頭を癒す眼福~東京国立近代美術館「MOMATコレクション」

疲れた頭を癒す眼福~東京国立近代美術館「MOMATコレクション」

ゲルハルト・リヒター展鑑賞後、もう一つの楽しみが常設展であるMOMATコレクション。
今回出会えた、お気に入りを紹介していきたい。

国吉康雄、好きなんだよなあ。
若くしてアメリカに渡り、一時はアメリカの美術界の第一人者にも昇り詰めるが、太平洋戦争勃発が彼の活動に影を落とす。本作はそんな頃の作品なのだが、彼の心情が投影されて物語性に富んだ見ごたえのある仕上がりとなっている。

国吉が苦悩していた数

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ただ「見る」そして「己に問う」~東京国立近代美術館「ゲルハルト・リヒター展」

ただ「見る」そして「己に問う」~東京国立近代美術館「ゲルハルト・リヒター展」

東京国立近代美術館で開催している「ゲルハルト・リヒター展」へ行ってきた。当人のリヒターは御年90歳、いまだ現役の現代美術の巨匠である。
自分自身、苦手な現代美術であるが、現代美術のポイントを以前学んだこともあり、作品に向き合ったときにどう受け止められるかを確認する意味でも足を運んだ。

↑でも紹介したとおり、現代美術(の多く)は、描き出されたものがら自体に意味はない。それは一切の具体性を排除し線や

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日常に潜む不安定さ~「牧歌礼讃/楽園憧憬」

日常に潜む不安定さ~「牧歌礼讃/楽園憧憬」

5月も半ばを過ぎ、バラでも愛でに行こうと思った矢先の大雨。
急遽行先を変更して訪れたのが、東京ステーションギャラリー。正直あまり期待していなかったのだが。
「牧歌礼讃/楽園憧憬 アンドレ・ボーシャン+藤田龍児」

いやいや、ここの美術館の学芸員の眼力には恐れ入る。危うくこんな素晴らしい展覧会を見逃すところであった。

もともとは海外美術館からの借り入れを想定していた展覧会が、コロナ禍で見送りとなっ

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自分の絵画鑑賞の(ほぼ)原点~松岡美術館「松岡コレクションの真髄」

自分の絵画鑑賞の(ほぼ)原点~松岡美術館「松岡コレクションの真髄」

この度約2年半の改修期間を終えて、再開館した松岡美術館に行ってきた。

展示の様子はこちらの動画でよく分かるだろう。

自分にとって松岡美術館はとても思い出深い美術館である。
美術鑑賞を始めるようになったばかりでまだ鑑賞のポイントも全く分かっていなかった頃、よくこの美術館に足繫く通ったものだ。

今回の展示にはなかったが、西洋美術のコレクションも充実しているのでだ。特に印象派とエコールドパリと言わ

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言われてみればセザンヌらしさも~山種美術館「奥村土牛」

言われてみればセザンヌらしさも~山種美術館「奥村土牛」



山種美術館ファンであれば誰もがその作品を目にしたことのある奥村土牛。
今回彼の個展であったが、改めてみるととても新鮮な発見があった。

彼は若いころ当時の師匠に買い与えられたセザンヌの画集を見て、強く影響を受けたという。
そう言われてみると、特に若いころの作品に色濃く表れているように見えた。

「雨趣」(1928年・39歳)
建物と緑とが、とても堅牢に画面を構築している。雨を主題としていること

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現代美術は”美術”か?~「西洋美術の歴史8」

現代美術は”美術”か?~「西洋美術の歴史8」

「西洋美術の歴史」シリーズも最終巻、20世紀まできた。

20世紀美術で自分自身一番わからないのが、「現代美術」「抽象画」の扱いである。これはどのように向き合えばいいのか分からないでいたのだ。

画家たちが絵画を制作する目的について、本書では以下のような記述をしている。

彼(アルフレッド・H・バー・ジュニア)の見解によれば、絵画の主たる価値は、色彩、線、明暗という造形手段の後世にある。自然の対象

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この画家を知れた喜び~平塚市美術館「物語る 遠藤彰子展」

この画家を知れた喜び~平塚市美術館「物語る 遠藤彰子展」



同時代にこんなスケールの大きな日本人作家がいたとは。
ほんとに「オラ、わくわくすっぞ!」である。
なんのこっちゃ。。

遠藤彰子という画家をご存じだろうか。

ご本人のサイト、とても親切で過去の作品を多くアーカイブして下さっている。これはこれで眼福なのだが、彼女の作品はこれだけでは足りない。
最大1500号!という巨大な作品を目の前にして、文字通り平衡感覚が揺らぐ体験をしてこそ

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出品作の傾向が変わった?~「改組 新 第8回日展」

出品作の傾向が変わった?~「改組 新 第8回日展」

毎年の楽しみにしている展覧会。数えると今回で5回目の訪問。
特に親戚・友人で出品しているわけではないけど。
さあ、今年はどんな優品に出会えるか。

昨年の記事はこちら。

まずは個人的殿堂入りの方から。

福田季生「春爛漫」(日本画)
昨年は残念ながら出品されていなかったのだが、今年はお目見えできた。
他の作品と比べるとその完成度に目を瞠るばかり。惜しむらくはこの方の個展が関西中心のため、普段見に

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その時その場を経験せずとも襲われる郷愁~「川瀬巴水 旅と郷愁の風景」

その時その場を経験せずとも襲われる郷愁~「川瀬巴水 旅と郷愁の風景」

最近、なんとなく「新版画」の人気が高まっているようだ。その一人が吉田博であり、もう一人は川瀬巴水。
今夏、大田区の公立美術館でも展覧会があったが、SOMPO美術館も参戦(?)してきたので、こちらにも足を運んでみた。

自分の知る限り、SOMPO美術館で日本画の展覧会というのは実に珍しい。振り返ると2017年に吉田博展を開催してはいるが、それ以外には記憶にない。

巴水というと、東京名所図の連作が有

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性は対称性を有するか否か~「美男におわす」

性は対称性を有するか否か~「美男におわす」

美術には、特に日本だけかもしれないが「美人画」と称される分野がある。
いままではそう括られる作品に対して何ら違和感は持たれることはなかった。日本画では、浮世絵の喜多川歌麿から上村松園、伊東深水、鏑木清方など連綿と受け継がれてきた。
でも、21世紀の今日、いまだに「美人画」ってどうなの?
そう疑問を呈したような展覧会が埼玉で開催された。埼玉県立近代美術館の「美男におわす」展である。

美人画の系譜を

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