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水のような関係を。


ーー関係は、相手と紡いできた物語の上に成り立っているものなので、「友達」やら「恋人」やら「家族」という単語ひとつで語れるものじゃないんですよね。この世に同じ名前の関係なんてないんです。


人生は物語。
どうも横山黎です。

今回は「名前のない関係を考える」というテーマで話していこうと思います。


📚『キッチン』の描く「関係」

最近吉本ばななさんのデビュー作『キッチン』を読んだんです。大学のゼミでこの本について対話するのでそれで読むことになったんですが、とても興味深く、僕が今つくっている新作のテーマにも通じるものがあったので、記事にします。

祖母を亡くして身寄りがなくなった女子大生の桜井みかげは、祖母と仲の良かった田辺雄一の家に転がり込みます。雄一と、その母親(元々父親だった人)との日々を通して、希望を見つける温かい物語です。

「死」や「絶望」を題材にしているんですが、書き口や展開が柔らかく、僕らの日常に寄り添ってくれるようで、とても読みやすかったです。


物語全体を通して描かれたのは「絶望からの立ち直り方」であり、自分の中の拠り所=「キッチン」を見つけることでどんな苦難にも耐えて、しあわせに生き続けることができるというメッセージを受け取りました。

しかし、僕が注目したのは、みかげと雄一の関係性です。

みかがと雄一は恋人ではありません。祖母の死をきっかけに知り合った同士であり、ひとつ屋根の下家族のように日々を共にする仲です。

大学の同級生からは「あいつらデキてる」と噂されるんですが、本人たちからしたら何をおかしなことを言っているんだという話。もちろん、男女ですから、お互いに恋人という名前の関係を見つめたことがないわけではないと思いますが、彼らは、いわゆる「デキてる関係」ではありません。

言ってしまえば、名前のない関係。友達とも恋人とも家族ともいえない、ふたりだけの共同体なのです。


📚同じ名前の関係なんてない

僕は、「この世に同じ名前の関係なんてない」と思っています。名前があるから制限されているだけで、自分と他人と紡ぐ関係はひとつとして同じわけがないじゃないですか。

1人目の恋人も、2人目の恋人。どちらも恋愛関係と括られるけれど、同じ向き合い方、付き合い方で接していませんよね。同じ名前だけど、ひとつひとつの関係は違う。当たり前すぎて忘れがちだけど、それを失念していて起こる事故ってあると思うんです。

『キッチン』でいえば、同級生たちが「デキてる」と冷かしたわけじゃないですか。実害はなかったけれど、裏でどんな話をしているか分からないし、あのあと事故が起きるかもしれない。

関係は、相手と紡いできた物語の上に成り立っているものなので、「友達」やら「恋人」やら「家族」という単語ひとつで語れるものじゃないんですよね。

この世に同じ名前の関係なんてないんです。

📚水のような関係

それこそ僕は今、元カノ(サラ)と作品を作っているんです。『君はマスクを取らない』という青春小説で、僕とサラの経験を下地にしたコロナの物語です。

コロナ前からあった作品なんですが、コロナ禍の経験を通して僕らは次の時代をどう生きるべきなのかを問いかける作品に作り直したいと考えました。

そこで丁寧に描くのは、「名前のない関係」です。主人公の男子校生と、ずっとマスクをつけている女子高生の2人がどんな風に関係を変えていくのかを綴ります。

それも僕とサラとの関係に通じるものがあります。

サラとの関係は途絶えることなく、流れるように変わっていきました。大学の同級生から始まり、友達になり、恋人になり、別れて過去の人になり、時に相談し合う仲になり、今はパートナーとして作品を作ってる。

これをひとつの名前でくくれるわけないじゃないですか。


時と場合によって名前が流動的に変わる水のような関係のふたりを、作品の中でも描いていきたいと思います。最後まで読んでくださりありがとうございました。

20230117 横山黎

今日の1冊
『骨が十遍』
高校の文芸部の先輩が作った本!装丁が面白くて、CDケースみたいになっています。想定の世界も奥深いなぁと思いました。メギドっていうゲームの二次創作なんですが、夏目漱石の『夢十夜』をモチーフにしています。物々しい十の物語でした。

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