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うた

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気ままに書いた散文詩や、短編小説たち。 一話完結のものを集めました。気軽に読んでやってください。
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#詩

【詩】レモンのうた

【詩】レモンのうた

レモンから
爽やかなうたが
聴こえてくるよ
耳にも鮮やかな黄色い声色に
甘酸っぱくてフレッシュな旋律で
まあるいからだを朗らかに揺らしながら
陽気な太陽のうたをとても愉快に歌っているよ
けれどもママがぎゅうぎゅうレモンを絞りあげ
「かわいいかわいい私の坊や、どうぞ召し上がれ」
おいしいレモンのパイにしちゃったもんだから
ぼくはちょっぴり悲しくなっちゃった
けれども今度はぼくのおなかから
あのうたが

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【詩小説】月患い

【詩小説】月患い

今朝の月の、なんと幸の薄そうなこと
ぼうっと白く、息も絶え絶え浮かんでる
「まるで姉様みたい」
自分の口からついて出た言葉に
自分がいちばん驚いていた

病弱な姉様が羨ましかった
めらめらと嫉妬が燃え上がる
太陽の如き私の心は
きっと醜くてあさましいんでしょうけれど

でも、姉様?
お母様の御心も、
そしてあの方の御心も、
貴方にかかりきりなのよ

だから姉様
ずっと消えないでいて

消えてしまっ

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【詩】黒い花火

【詩】黒い花火

花火と手をつないで
夜空に打ち上がってしまいたい
ぱっと弾けたら消えたふりをして
そっと君の白シャツを火薬色に染めてやる
#シロクマ文芸部 に参加させていただいております。 #花火と手 #詩

【詩小説】風の子

【詩小説】風の子

風鈴と戯れる子どもたちが、
私の目に青く眩しく映った。

強烈な陽射しに
透けてしまいそうなほど柔らかい髪を
奔放になびかせて、
子どもたちは駆けてゆく。

洗いたての服をはためかせて、
青々とした草木をゆらして、
たのしそうに笑いながら、
子どもたちは駆けてゆく。

くるくると渦を描いたと思えば、
まっすぐに疾走したりしながら、
私の方へやってきて、
すれ違いざまにハラリ、
スカートの裾をめく

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【詩】お空をたべたら

【詩】お空をたべたら

かき氷が、
小さな入道雲みたいに、
涼しげなプラスチックの器をいっぱいにしたよ。

青空色のシロップが、入道雲を溶かしていったよ。

ひとくち食べたら夏の味がして、
夢中で食べたら舌まで染まって、
さいごはスプーンですくえないくらいの
小さな海が残ったよ。
#シロクマ文芸部 #かき氷 #詩

雨彩

雨彩

「紫陽花をドライフラワーにしちゃいけないよ。そのまあるい花は、雨でできているから」
 雨傘を避けると、おじいさんがわたしを見下ろしていた。
「ドライフラワーってなに?」
 わたしが尋ねると、おじいさんは目を細めた。
「お花をミイラにしてしまうことさ、お嬢さん」
 ミイラってなに、と聞いたけれど、わたしの声は雷に打たれて流れていった。

 梅雨の頃になるといつも思い出すこの秘密の記憶は、セピア色に乾

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パレード

まだ、誰も僕を見つけてはいない。

極彩色の紙吹雪
ステキに陽気な音楽
溢れんばかりの歓声

ここが世界中のどこよりも
醜い闇を映し出す鏡であることを
僕は誰よりも知っている。

まだ、誰も僕を見つけてはいない。

キャンディをねだる子供たち
バルーンを配るピエロ
顔を赤らめた飲んだくれ達

喩え神様が読み飽きたシナリオでも
何も知らない哀れな役者は
台本通りの幸せを演じている。

まだ、誰も僕を

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夜を盗みに

何かが起こりそうな
冷たい夜の気配に誘われて目が覚める。

きっと二度と朝は来ないだろう。
これが最後の冒険になる。

深呼吸して、闇の音。
夜の街を流星の速さで疾走する。

出来損ないの私はきっと虎にはなれないだろう。
けれど、この夜を盗むことはできる。