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映画『劇場版 アンダードッグ 前編』感想

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過去の感想文を投稿する記事【47】


 近々、あの那須川天心さんがプロボクシングデビューするんですってね。すごいこっちゃ!

だからってワケでもないのですが、本日はボクシング映画の感想文を投稿しようかと。
本作は、前・後編で分かれている作品です。
後編の感想文はこちらから

あと、メインの三人や周囲の人々の群像劇を描いたドラマシリーズもABEMAプレミアムで配信中なんだとか……。僕は未見ですが、併せて観ても面白いかもしれません。


誰もがロッキーになれると信じている


 アンダードッグ——負け犬、というタイトルがこの映画の全てを物語っています。その言葉の意味を心底噛み締めることができるのが本作最大の魅力。この “負け犬”、或いは “噛ませ犬” が誰のことを指す言葉なのか。それを意識しながら観るとより面白い……というか、むしろ意識させてくれるように作られている気さえします。末永(森山未來)、大村(北村匠海)、宮木(勝地涼)……、彼らそれぞれにアンダードッグとしての物語があり、それぞれが互いのアンダードッグ感を増長させるような対比の関係になっているような印象でした。

 正しい形容かはわからないけど、このボクサー三人の関係に限らず、本作には人生における〈勝ち・負け〉みたいなものがたくさん描かれている気がします。その構図が見事。持つ者と持たざる者という関係で勝ち負けを印象付けたかと思えば、一方ではその上下関係が逆になっていたりする。虐げられ、辛い目に遭う者が、他の者に対して酷い仕打ちをしたりする。身体が不自由な男、DVに苦しむ女、ネグレクトされる少女、売れない芸人……。もっと細かい部分で言えば、別居中の妻が息子と暮らしているアパートの部屋が二階にあるのに対し、主人公・末永が働くデリヘルが地下にあるっていう、この高低差によって暗に示しているのも面白い。



アンダードッグ効果——不利な状況にある者や弱者を応援したくなる心理——があっちに行ったりこっちに来たり、感情移入が忙しないのに、置いてけぼりにならない感じもまた素晴らしい。

 ちょっと視点を変えると、やたらと性的な描写があったのも効果的だと思います。これは男性的視点の意見だけど、いわゆる “賢者タイム” という、情事を終えた際の虚無感は、まるで末永が抱えている心情そのもののよう。言葉は悪いけど、「誰でも良かった」……そんな女性に金を払って相手をしてもらい、結局残ったのは「何やってんだろオレ……」みたいな虚しさ。

あとは、金のために体を売る娼婦と、欲望のために金で女の体を買う男という、どっちがマウントを取っているのかわからない構図とか、他にも、パートナーとのセックスですら、心が満たされていないことを浮き彫りにさせるものに見えてくる。


 こうした色んな負け犬が描かれていき、迎えるクライマックスは、噛ませ犬としてリングに上がった宮木vs主人公・末永の試合。これが前編のラストを締め括るわけですが、この試合によって本当の意味での、或いは物語中一番の負け犬が詳らかにされる。……ああ、うん。もう多分ネタバレするよ、ごめんね笑。輝きを放っていた自身の過去にしがみついていたはずの男が “戦うことすら放棄” してしまった結果、試合で輝いていたのは、噛ませ犬と理解していながらも “戦いにきた男” だった……。

なんて言うか、アンダードッグ効果による盛り上がりによって、もう一方で新たなアンダードッグ効果が生まれる、みたいな面白さ! 僕の言葉足らずのせいです、もう文章だけじゃ伝えられないよ!

 結果的に主人公・末永は、“ロッキーになれなかった男” なわけだが、「ロッキーのようになれる」と思っていた男だからこそ、単に頑張れなかった奴以上に惨めったらしい。物語の中で、末永がリングの中央で寝たばこをするシーンが幾度かある。元チャンピオンとの試合に負け、天を仰ぐように倒れた時と同じようなそのポーズでタバコを吸う姿は、彼がその頃の輝き(ボクシング)から離れられずにしがみ付き、かといって何もできずにいることを 教えてくれる。



 本作、特に前編は、人物の目線がとても気になってしょうがない。鏡越しのセリフ、背中越しのセリフが幾度もあるのは、決して気取っているだけじゃないと思うんです。誰の目にも止まらない、何だったら自分自身が現実から目を背けていることを匂わすメタファーなんじゃないかな。誰も当人を見ようとしない中で、逆に見られている者(輝きを放つ者)が同時に存在することでそれが浮き彫りになっていく。

そしてラストの試合の後には、母親の反対を押し切ってまで彼の試合を見ていた息子が、TVの電源を消す……。

本気の者に応えない、プロボクサーとしての裏切り。
くすぶっていながらも過去の激闘以来、自身を認め、信じ続けてくれた元チャンピオンへの裏切り。
そして、最期の最後まで信じてくれていた息子への裏切り……。

様々な期待を無為にしてしまったこと、その愚かさに気付くのがあまりにも遅かった。彼のラストの表情は完璧。


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