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映画 ある男

※ネタバレ注意

原作の小説は全く読まずに観に行った。
事前に知り得ていた情報は、映画館で流れる公開前の広告のみで、ひとりの男性が亡くなり、その人が実は正体不明ということしかわからない。
設定に興味を持ったことと、安藤サクラが好きだったことから劇場へ足を運ぶことにした。

冒頭では、安藤サクラの泣く姿から始まるものの、互いに惹かれ合い、結婚出産を経て、それぞれが抱く悲しみが垣間見えつつも、ようやく手にした幸せな生活が描かれる。
この先に悲しい出来事が待っていることはわかっているため、つい笑ってしまうようなシーンであっても、その幸せは悲しく映る。
この幸せがずっと続けばいいのにと、願わずにはいられない。

所謂謎解きストーリーではあるものの、含みを持たせた演出をばんばん入れたり、場面転換も激しかったりとするような、見ている側に考えさせるようなものではなかった。
登場人物がそれぞれ持つエピソードは順を追って丁寧に説明され、とてもわかりやすい。

登場人物だれもが過去に背負うものがあり、それは親からの十字架であったり、子どもの病死や自身の離婚、国籍と差別、親兄弟からの圧力など、それぞれが抱く暗いものが重たいものがうごめいている。
それらはひとつひとつを取り上げればこの社会、テレビニュースの中によくあるものではあるが、それらの中に身を置いている登場人物たちは苦しそうだ。
後の世代に継承させないようにともがく様子は痛ましく、自分自身も救われたいと願いつつも、逃れることのできない姿は見ていてつらいものがある。
負の連鎖は断ち切れると信じて懸命に生きていても何度も挫折を味わい、負の陰がちらつきながらも、やっと手に入れた幸せはなんの因果か、もろくも崩れ、空しさを呼ぶ。
誰しも幸せになりたいだけなのに、自分の力ではどうにもできない状況は同情を覚える。

安藤サクラが最後に「誰だかわからないままでもよかったかもしれない」的なことを言っていたが、本当にその通りで、そのまま蓋をしておけばみんな幸せのままだったんじゃないかなぁ。
話として成り立たなくなってしまうけど、蓋を開けた中身は悲しみでいっぱいで、幸せな夢を見たままにしてあげたいと思った。

それにしても一番恐ろしかったのは真木よう子だ。
子ども想い、夫想いなもっともらしいことを言いつつも、一番身近なエグいことをやっている。
出番少なくともその存在感は大きく、一番わかりやすい不幸を抱いた求めるばかりの孤独な女だった。

安藤サクラは、よく泣いていたのが印象的だった。
万引き家族の時には、泣き顔を隠す演技で絶賛されていたが、今回はそんなこともなく涙はそのままに流れていた。

映画を観るといつもそうなのだが、数日ほど現実とこの世界との挾間を漂ってしまい、暗くて真っ当さを与えられなかった境遇を恨み、誰もが報われますようにと願う日を過ごしてしまった。
自分の人生を変えるべく、苦しみもがく本作は、自分は誰で、どう生きていきたいのかを改めて考えさせる作品だった。

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