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チョコレートでより良い世界を。2人のフィンランド人の挑戦

ヘルシンキ・ヴァンター空港内のショップ、または米国Whole Foodsでその美麗なデザインに目が留まり、お土産や自分へのご褒美として購入したことがある方は少なくないかもしれません。それはGoodioチョコレート。2012年に生まれたフィンランド・ブランドは、ついつい周りや自分自身にプレゼントをしたくなるクラフトチョコレートです。

特に北欧の魅力を五感で楽しめる4つのフレーバー。
左から「Flower」、「Berry」、「Forest」、「Sea」(写真提供:Goodio)

デザインへの拘りはパッケージの表面にとどまりません。中を開けるとパッケージの裏側には創業者Jukka氏による「A LOVELETTER TO NATURE」、
つまり自然への愛情・感謝の気持ちが綴られており、読む人はノスタルジックな北欧の世界に引き込まれます。

「Forest」のパッケージの内側(写真提供:Goodio)

パッケージの中を開ければ、3日間低温でじっくり加熱されたカカオ豆の深いコクの香りが広がり、華やかで洗練に作り上げられたチョコレートを目にできます。

チョコレートはまるで芸術作品のような美しさ(写真提供:Goodio)

味は上質感ある甘味と、フレーバーごとに拘ったテイストが絶妙にブレンドされていて、後を引く美味しさです。

20種類を超えるフレーバーは、いずれも原材料にオーガニックのカカオ豆を厳選したペルーの生産者から直接適正価格で仕入れており、製造工場のあるフィンランドで、社員の方々(10%は聴覚など何かしらの障がいを持つ方々)が愛情を持って丁寧に一つひとつ手作り・Bean to Bar(カカオ豆からチョコレートまでの製造を一貫して行うこと)で作っています。また、砂糖・乳製品・添加物不使用・グルテンフリーのため、ヴィーガンチョコレートでもあります。
栄養面では上記の通り低温加熱処理をしているため、カカオ豆本来のビタミンやミネラルが通常の高温処理でのように失われず、抗酸化作用が強いとされるポリフェノールや酵素が生きたまま身体に届けれられます(このようなチョコレートを、ローチョコレート(”Raw chocolate”)と呼ぶそうです)。

展開国はすでに16ヵ国、今年(*2022年)の年間販売量予想は約35万個。世界中でファンが増え続けているGoodioのチョコレート。しかし、その経営は創業時より決して順風満帆ではありませんでした。ゼロからブランドを創り上げる難しさやコロナによる受注減など、度重なる壁にぶつかっては仲間で知恵を絞り合い、あきらめずに苦難を乗り越えてきました。


創業者・経営者ストーリー

次に、二人の登場人物を紹介します。

自らが経験した苦悩から、チョコレートによって世界により良い変化をもたらすことをミッションに掲げた①創業者Jukka氏と、娘からの思わぬ質問で20年勤め上げた大企業を辞めGoodioへの転職を決心し、入社後僅か一年で経営のトップに就いた②現CEOのSami氏それぞれのストーリーです。

この度、Goodio本社兼チョコレート工場で②現CEOのSami氏に直接インタビューをさせていただき、二人のお話について詳しく掘り下げさせていただきました。
※①創業者Jukka氏のストーリーは当社HP内の記載内容に、②現CEOのSami氏へのインタビューにて伺った内容を加筆しています。

①創業者Jukka氏:
「皆が幸せになるチョコレートで世界をより良くしたい」

自分の人生は、自分で責任を取らなければならない。

30代、Jukka氏(本名:Jukka Peltola)は疲れ果てていました。当時ゲーム会社で開発業務に従事していたころ、心身ともに決して健康とは言える状態ではなく、医者に処方された薬に頼ることにしました。しかし、投薬後も疲弊している自分の姿を鏡で見て、「世界をより良くしたい」と夢見ていた少年はどこへ行ってしまったのかと落胆しました。

創業者のJukka Peltola氏。
現在はChief Creative Officerの役職を担う(写真提供:Goodio)

このままではいけない。自分の人生は自分で責任を取らなければならない。覚悟を決めたJukka氏は、その後投薬を辞め、もともと強い関心があった健康食品に目をつけ、まずは自分の栄養面を見直すことにしました。その一環でカカオ豆の効能について知り、大きなショックを受けます。カカオ豆は本来高い栄養素を持つにも関わらず、世に溢れているチョコレートの多くは、その原材料のカカオ豆が高温処理されており、その過程で高い栄養素の多くは破壊されているということ。さらには、カカオ豆を生産している生産者と適正価格で取引されているかが見えないこと。
低温処理で作られたローチョコレートを食べることで自身の心も身体も改善されていることを実感したJukka氏は、健康に良く、且つ、カカオ豆を生産者からフェアに仕入れていることが目に見えるチョコレートを作ることで世界をより良くすることを決意。
一念発起し、Goodioを創業しました。

"It's All Good"なチョコレートの実現に向けて

起業経験なし、チョコレート作りの経験なしのJukka氏にとってはすべてが新しいチャレンジでした。
Goodioのキャッチフレーズは、"It's All Good"
言葉にすると一見シンプルですが、本当に「すべて」Goodにすることに拘るということは、生産者、従業員、顧客、社会、環境など、チョコレートづくりに関わる「すべて」のステークホルダーを"Good"にするということであり、それは並大抵のことではありません。

Jukka氏は理想的な、”All Good”なチョコレートを実現するために一切妥協せず日々奮闘しました。しかし、ついに2014年、創業から2年で運転資金は残り僅かとなり、翌月の家賃の支払いも難しくなってしまいました。二人の子どもを持つ親として、日々生活できるお金も稼がなければいけない。一人で考えては頭を抱えていました。あきらめそうになった矢先、藁をもつかむ思いで古くの友人たちに相談したところ、彼らがJukka氏の強い意志に共鳴してくれ、それぞれが持つスキルセットやノウハウを最大限に活かしてGoodioを成長させることにコミットしてくれたのです。

そこからGoodioは一気に軌道に乗ります。
販路は拡大し、米国Whole FoodsBarnes&Nobleでの取り扱いが開始され、数々の賞も受賞し、会社はForbes誌など数々のメディアでも取り上げられるようになりました。

パートナーたちの参画以降、Jukka氏はもう一人で思い悩むことはなく、日々チーム一丸となり"All Good"なチョコレート作りに励んでいます。Jukka氏が幼いころに思った「世界をより良くしたい」という純粋な気持ちがチームの根底にあるように感じます。

そして暫くして、会社は組織変更にてJukka氏は自身の得意分野であるCreativeに専任す感覚し、経営のバトンをSami氏に譲ることとなります。

②現CEO Sami氏:
「現場の感覚を重視し、Goodioのミッションを実現する」

現CEOのSami氏(本名:Sami Nupponen)はGoodioに参画するまで、Jukka氏とは異なるキャリアを歩まれています。ヘルシンキ大学(日本でいう東京大学のようなトップ校)で食品科学の理学修士を取得し、フィンランド現地の乳製品最大手で老舗のValio社で20年以上勤め上げた、まさに食品に関するプロ

長年勤めた大企業からスタートアップへ、そして、
取り扱う商品は乳製品からヴィーガンのチョコレートに。

Sami氏はどのような経緯でこの一大決心に至ったのか。
Goodioオフィスにてご本人に直接お伺いしました。

現CEOのSami氏。フィンランドの本社兼工場内にて(写真:著者撮影)

常に新しい学びを求めて

「常に新しい学びのある環境が自分を成長させる」と言うSami氏。Valio社一社で約20年以上勤めましたが、在籍中は様々な経験をし多くを学ぶ機会に恵まれました。最も長く経験した職種は生産関連。職場は工場。生産における様々な工程の経験や、機械の自動化、環境に配慮した技術の取り入れ、SCM等にも携わり、常に新しい知識を得ることができました。(余談ですが、入社して始めての仕事は手作業でヨーグルトを発送用の箱に詰めることだったそうです。)自身を"Harcore production guy"と呼ぶほど、生産に関しては隅から隅まで経験・理解をし、約10年後にはリーダーシップも評価され工場長に抜擢されました。

その後もValio社はSami氏に新たな学びを得る機会を次々と提供しました。工場長を経験した後は、マーケティングの部署に異動。約4年間、複数のブランドを担当し、何百億円という売上に貢献しました。

マーケティング部でも結果を出したSami氏に、次は当時Valio社として過去最大規模の工場立ち上げ案件の責任者の話が打診されました。マーケティング部の仲間と離れるのは辛かったのですが、これも新たな経験・学びを得れる貴重な機会と思い、Sami氏は承諾しました。工場の建物に限らず、高速道路の出口まで設計(規模の大きさが伝わるかと思います)に携わり大きなやりがいを感じていたところ、会社の組織変更が通知されSami氏は本立ち上げ案件からやむを得ず営業に異動されることになりました。

営業でも結果を出していたSami氏ですが、その数年間で自身の成長が鈍化していると感じました。新たなことを学ぶことへの貪欲さから、個人で空いた時間にプログラミングを勉強するまでに。しかし、それでも何か物足りなさを感じる日々は変わりませんでした。

決め手は娘からの質問

そんな折、知人を通してSami氏はGoodioを知ることになります。食品のプロとしてローチョコレートの味や効能、生産方法に非常に高い関心を持ちました。また、Sami氏自身特に近年、世界はもっとサスティナブルな食品が必要と感じていたこともあり、Jukka氏のビジョンやGoodioで働く人々にも大変魅了されました。Sami氏はGoodioのチームに参画することを真剣に考えます。
しかし、現状Valio社という大企業に勤務していることで安定した生活があり、20年以上勤めた分、大切な仲間もたくさんいます。

Valioに残るべきか、それともGoodioに転職すべきか。
悩んでいた矢先、娘に聞かれた一言でその迷いはなくなります。

「お父さんはお仕事何をしているの?」

Sami氏は一瞬固まってしまいました。
仕事はValioという大企業での営業。しかし、日々の業務は主にオフィスでのパワーポイントでの資料作り。回答に困りました。

翻って、工場長や工場立ち上げ案件の責任者の仕事は日々大きなやりがいを感じていて、娘にも胸を張ってその内容を話せる。Sami氏は気づきました。
自分がやりたいことは、現場での手触り感のある仕事で日々新たな経験をし、自身の成長・やりがいを実感できること。また、サスティナブルな食品をより多く世界に広めること。GoodioはSami氏の食品に関する幅広い経験から得た知見やリーダーシップを求めている。Sami氏も生産現場の第一線で、責任者として生産効率の向上や透明性の確保などを今までとは異なる環境で経験ができる。しかも、取り扱う食品はローチョコレートでサスティナブルな食品。
Sami氏はGoodioへの参画を決意します。

娘の一言で大きな決断をしたSami氏。
入社後は持ち前のリーダーシップを発揮し、一年後には会社のCEOとなります。しかし、今でも基本的に毎日現場に足を運んでいるとのこと。

工場内でのSami氏(写真:著者撮影)

「Goodioの現にでは常に学びが多い。今後も現場の感覚を大事にし、会社が掲げるミッションである、"to accelerate positive change with world's best chocolate"を実現するために粛々と自分にできることに全力を尽くす。」

本インタビュー時も右腕の袖にチョコレートがついた服を着ていた姿がとても印象的でした。現場を重視するCEO、Sami氏のリーダーシップでGoodioが今後どのようにさらに成長していくか、今後も楽しみです。

あとがき

2020年、コロナによるGoodioの経営へのダメージは決して小さくありませんでした。しかし、Sami氏と他経営陣はあきらめずにチョコレートの生産を続け、危機を乗り越えることができました。いかなる困難に直面しても、会社としてvalueしている3つの指針である"Sustainability"、"Well-being"、"Transparency"がぶれないことが重要であることを強調されています。

Values: Sustainability, Well-being, Transparency

以下にそれぞれの考え方や取り組み例を紹介します:
(すでに上述しているものあり)

  • Sustainability(持続可能性)

    • オーガニックのカカオ豆を利用し、土壌を保全

    • パッケージは土に還る原料を利用(現状一時的に供給不足のため対応不可)

    • 従業員の10%は何かしらの障がいを持った方を採用

  • Well-being(ウェルビーイング)

    • 従業員:柔軟な働き方に応える制度や保険などを提供

    • 消費者:栄養価が高く、ヘルシーなチョコレートを提供

    • 生産者:生産者の生活水準を守るために、適正な価格で原材料を購入

  • Transparency(透明性)

    • チョコレートのバリューチェーン全体でサプライチェーンの透明性を確保

    • 消費者に生産者の顔が見え、且つ、生産者から適正な価格でカカオ豆が購入されていることがわかるように→ブロックチェーン等のデジタル技術を活用

    • サプライチェーンに限らず、チョコレートのレシピから工場の内部までなど、すべてオープンに

ヘルシンキ市の隣、ヴァンター市にあるGoodioの工場。
大きい窓は透明性を象徴するためにあえて選んだとのこと(写真:著者撮影)


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