中野らら(臨床心理士/公認心理師)

解離性同一性障害の理解が少しでも広がるように、臨床現場での出来事を 物語にして書いてい…

中野らら(臨床心理士/公認心理師)

解離性同一性障害の理解が少しでも広がるように、臨床現場での出来事を 物語にして書いています。

記事一覧

ニジイロの花 解離性同一性障害と生きる アオイ編Vol.5 最終章ー私と私が手をつなぐー

カウンセリングを始めて3ヶ月を過ぎた頃のことだ。面接室でアオイがふと我にかえると、机の画用紙にハートや動物が描かれていたり、粘土の工作が出来上がったりしていた。 …

ニジイロの花 解離性同一性障害と生きる アオイ編Vol.4 ーカウンセリングと交換ノートー

初診が終わっての帰り道。 「もうさ、なんでもやってみようよ。それでアオイが、少しでも楽になればいいことだし。嫌だったら、すぐにやめればいいからさ。何も気負うこと…

ニジイロの花 解離性同一性障害と生きる アオイ編Vol.3 ー治療のはじまりー

出張から戻ると、新刊本のデータ入稿に向けて、遅くまでオフィスに残る日々が続いた。先輩に言われた作業をするだけでも、あっという間に1日が過ぎていく。 「最近よくウ…

ニジイロの花 解離性同一性障害と生きる アオイ編Vol.2 ー飛んだ記憶ー

「新刊本のサイン会を東京のあとに福岡でもやるんだけど、アオイちゃんかルリちゃん、どっちか出張に行ってくれない?」 新人作家の発掘に力を入れているチームリーダーの…

ニジイロの花 解離性同一性障害と生きる アオイ編Vol.1 ー9歳の私がいるの?ー

「連休が終わっちゃうね。明日から仕事だ。やだなぁ」 2人で行った山中湖のキャンプの帰り、アオイがそう言うと、ナオキはバーベキューのスモークされた残り香を深く嗅ぐ…

ニジイロの花 解離性同一性障害と生きる アオイ編Vol.5 最終章ー私と私が手をつなぐー

ニジイロの花 解離性同一性障害と生きる アオイ編Vol.5 最終章ー私と私が手をつなぐー

カウンセリングを始めて3ヶ月を過ぎた頃のことだ。面接室でアオイがふと我にかえると、机の画用紙にハートや動物が描かれていたり、粘土の工作が出来上がったりしていた。
アオちゃんが面接室に顔を出すようになったのだ。

中野さんによると、50分の面接時間のうち20分くらいは、アオちゃんの時間になっているようだった。

「アオちゃん、よくお喋りしますよ。賢い子です。工作が大好きで、今日はこれを楽しそうに作り

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ニジイロの花 解離性同一性障害と生きる アオイ編Vol.4 ーカウンセリングと交換ノートー

ニジイロの花 解離性同一性障害と生きる アオイ編Vol.4 ーカウンセリングと交換ノートー

初診が終わっての帰り道。
「もうさ、なんでもやってみようよ。それでアオイが、少しでも楽になればいいことだし。嫌だったら、すぐにやめればいいからさ。何も気負うことないよ」
ナオキは、まるでお稽古事でも勧めるかのように、明るくさりげなく言う。
アオイは気が重かった。何か始めなければ変わらないと思うけれど、始めたら、いったい何が起きるんだろうと、怖かった。
「う、うん、そうだよね……」
気が乗らないまま

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ニジイロの花 解離性同一性障害と生きる アオイ編Vol.3 ー治療のはじまりー

ニジイロの花 解離性同一性障害と生きる アオイ編Vol.3 ー治療のはじまりー

出張から戻ると、新刊本のデータ入稿に向けて、遅くまでオフィスに残る日々が続いた。先輩に言われた作業をするだけでも、あっという間に1日が過ぎていく。

「最近よくウトウト居眠りしてるけど、大丈夫?ちゃんと眠れてる?」
朝のミーティングのあと、ルリが聞いた。

「居眠りなんてしてないよ。確かに忙しくて目が回ってるけどねぇ」
「居眠りしてるの、自分じゃ気づいてないでしょ?今日は早く帰りなよ」

私の睡眠

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ニジイロの花 解離性同一性障害と生きる アオイ編Vol.2 ー飛んだ記憶ー

ニジイロの花 解離性同一性障害と生きる アオイ編Vol.2 ー飛んだ記憶ー

「新刊本のサイン会を東京のあとに福岡でもやるんだけど、アオイちゃんかルリちゃん、どっちか出張に行ってくれない?」

新人作家の発掘に力を入れているチームリーダーの荒木さんは、よくアオイ達をランチに誘ってくれる気さくな先輩だ。ルリは目を輝かせたが、日程を聞いて「あー、その日は友達の結婚式でダメだー」とアオイの顔を見た。

「じゃ私、大丈夫なんで行きますねー」と答えたものの、福岡と聞いて、アオイは少し

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ニジイロの花 解離性同一性障害と生きる アオイ編Vol.1 ー9歳の私がいるの?ー

ニジイロの花 解離性同一性障害と生きる アオイ編Vol.1 ー9歳の私がいるの?ー

「連休が終わっちゃうね。明日から仕事だ。やだなぁ」

2人で行った山中湖のキャンプの帰り、アオイがそう言うと、ナオキはバーベキューのスモークされた残り香を深く嗅ぐ素振りをして、前を見たまま言った。

「アオイさ、時々子どもになるよね。それって、わざとじゃないよね?」
「え?」

“子どもになる“って?
キャンプが楽しくてはしゃぎ過ぎたかな。それにしても、“わざとじゃないよね“って、ちょっとひどい言

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