中野らら(臨床心理士/公認心理師)

解離性同一性障害の理解が少しでも広がるように、臨床現場での出来事を 物語にして書いてい…

中野らら(臨床心理士/公認心理師)

解離性同一性障害の理解が少しでも広がるように、臨床現場での出来事を 物語にして書いています。

最近の記事

ニジイロの花 解離性同一性障害と生きる アオイ編Vol.5 最終章ー私と私が手をつなぐー

カウンセリングを始めて3ヶ月を過ぎた頃のことだ。面接室でアオイがふと我にかえると、机の画用紙にハートや動物が描かれていたり、粘土の工作が出来上がったりしていた。 アオちゃんが面接室に顔を出すようになったのだ。 中野さんによると、50分の面接時間のうち20分くらいは、アオちゃんの時間になっているようだった。 「アオちゃん、よくお喋りしますよ。賢い子です。工作が大好きで、今日はこれを楽しそうに作りましたよ」 いつも中野さんは、我にかえったアオイの感覚を取り戻すかのように、作品

    • ニジイロの花 解離性同一性障害と生きる アオイ編Vol.4 ーカウンセリングと交換ノートー

      初診が終わっての帰り道。 「もうさ、なんでもやってみようよ。それでアオイが、少しでも楽になればいいことだし。嫌だったら、すぐにやめればいいからさ。何も気負うことないよ」 ナオキは、まるでお稽古事でも勧めるかのように、明るくさりげなく言う。 アオイは気が重かった。何か始めなければ変わらないと思うけれど、始めたら、いったい何が起きるんだろうと、怖かった。 「う、うん、そうだよね……」 気が乗らないまま返事をすると、 「じゃ、電話するよ。2週間後だったら診察と一緒にカウンセリングの

      • ニジイロの花 解離性同一性障害と生きる アオイ編Vol.3 ー治療のはじまりー

        出張から戻ると、新刊本のデータ入稿に向けて、遅くまでオフィスに残る日々が続いた。先輩に言われた作業をするだけでも、あっという間に1日が過ぎていく。 「最近よくウトウト居眠りしてるけど、大丈夫?ちゃんと眠れてる?」 朝のミーティングのあと、ルリが聞いた。 「居眠りなんてしてないよ。確かに忙しくて目が回ってるけどねぇ」 「居眠りしてるの、自分じゃ気づいてないでしょ?今日は早く帰りなよ」 私の睡眠不足は仕事の忙しさだけではないかもしれないと、ぼんやり思う。 朝起きると、テーブ

        • ニジイロの花 解離性同一性障害と生きる アオイ編Vol.2 ー飛んだ記憶ー

          「新刊本のサイン会を東京のあとに福岡でもやるんだけど、アオイちゃんかルリちゃん、どっちか出張に行ってくれない?」 新人作家の発掘に力を入れているチームリーダーの荒木さんは、よくアオイ達をランチに誘ってくれる気さくな先輩だ。ルリは目を輝かせたが、日程を聞いて「あー、その日は友達の結婚式でダメだー」とアオイの顔を見た。 「じゃ私、大丈夫なんで行きますねー」と答えたものの、福岡と聞いて、アオイは少し気が重かった。 「そうだ、アオイは福岡出身じゃん。場所わかるでしょ。お土産、何

        ニジイロの花 解離性同一性障害と生きる アオイ編Vol.5 最終章ー私と私が手をつなぐー

          ニジイロの花 解離性同一性障害と生きる アオイ編Vol.1 ー9歳の私がいるの?ー

          「連休が終わっちゃうね。明日から仕事だ。やだなぁ」 2人で行った山中湖のキャンプの帰り、アオイがそう言うと、ナオキはバーベキューのスモークされた残り香を深く嗅ぐ素振りをして、前を見たまま言った。 「アオイさ、時々子どもになるよね。それって、わざとじゃないよね?」 「え?」 “子どもになる“って? キャンプが楽しくてはしゃぎ過ぎたかな。それにしても、“わざとじゃないよね“って、ちょっとひどい言い方だ。 「え、なに?私がわざと子どもっぽくしてるって?何のこと言ってるの?」

          ニジイロの花 解離性同一性障害と生きる アオイ編Vol.1 ー9歳の私がいるの?ー