®akuto

小説、マンガ、ゲーム、アニメ、映画。様々な事を書いていくかも。気が向いたら書く日記のよ…

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小説、マンガ、ゲーム、アニメ、映画。様々な事を書いていくかも。気が向いたら書く日記のようなものかも。自分の作品記録用

最近の記事

くべられて

 先ほどまで眩しい太陽が上空に鎮座していたというのに、アイテム欄を眺めていたらいつ間にか星空に変わっていた。クランハウスの庭具である焚火がゆらゆらと綺麗に描かれたポリゴンを揺らしている。 「あのね、木野さん。何回も言っていると思うけど」  注意を受けた勤務中の事を思い出す。思い出すことをどうにか止めようとするけれど、私の海馬はそれを許してくれなかった。  最近は病院から返ってくるといつもこう。パソコンを立ち上げて、「シロップストーリー」にログインする。クラフタージョブの依頼内

    • シミ

      がこり、と重苦しい音が深夜のコンビニ前で響いた。 「また缶コーヒーかい。しかも微糖」  呆れたようにそれは呟く。コンビニの前だというのに、自販機たちは意気揚々と、自分の商品を目が痛くなる程の明かりで見せつけていた。 「しょうがないっすよ、この人夜勤でカフェイン欲してるんですから」 「つったってもっと体にいいの選ばんかね、普通」  年季の入った自販機は、錆びた身体を震わせた。 「カフェイン取るだけならブラックコーヒーでいいだろ、大体そのコンビニで買えばいいっつう話だ。そもそもコ

      • 不可逆

        「こんばんは、あなたがトワ子さんですね?」  一人目の女は、明るい茶髪で見た感じ静かそうな女。プロフィールには顔の全体像が見えないような他撮りの写真に、趣味の欄に映画・音楽と意気揚々と記されている、どこにでも居そうな女だった。 「そ、そうです」  いかにも男慣れしていない、今の「若い女」という武器が使えるうちに経験を積んでおこうという精神が透けて見えた。 「じゃあ、お店予約してるんで、そっち行きましょうか」  空はもう太陽が隠れきっていて、死んだ顔のサラリーマンたちがスマート

        • 「かつて交わしたいつものを」

          四限の終わりを告げるチャイムが校舎に鳴り響く。教室内が昼休憩モードに切り替わるのを少し待ち、藤間香賀音(かがね)はスクールバックから風呂敷に包まれた小さな弁当箱を取り出す。周りの生徒達は各々購買や事前に買ってきているのであろう、菓子パンやジャンクフードの袋を開け始めていた。 「……ます」  誰が聞いているわけでも、この弁当を作った本人が見ているわけでもないが、一応手を合わせる。  香賀音は弁当箱を開けようと、丁寧にまかれている輪ゴムに手を掛ける。そこには一枚の付箋のようなもの

        くべられて

          キラキラ

           前には数え切れないほどの学生や子連れの母親などが、同じものを求めて列を成している。南条美咲も友達のリサを連れて、その目的のドリンク店に並んでいた。 「Rabbit drink」とハッシュタグ付けされた投稿が、いくつもリサのスマホに流れていた。カラフルな何層にもなった炭酸ドリンクと、その上にのっかったソフトクリームに、うさぎの耳に見立てた棒状のクッキーが二本刺さっている写真が多く投稿されていた。 「やっぱ可愛いよね、今撮っておくべきっしょ」 リサは鼻をふんふん鳴らしながら、キ

          キラキラ

          カメレオンはかわれない

           仰々しく覆われたビニールを剥いで、クリーニングされた背広を取り出す。紙製の名札が着いたままになっていないか確認して、袖を通す。家を出る前に、鏡の中にいる冴えない自分の顔を確認してから、いつ買ったか貰ったかも分からないキーホルダーの着いた鍵を鞄に突っ込む。きぃ、と玄関の軋む音と共に社会人の一日が始まる。息を吐くと、白く濁る。それほどまでに今朝は冷え切っていた。会社は電車とバスを乗り継いで一時間程。最初は新鮮だった車窓から見える景色も、つまらなくなってしまった。 「おはようござ

          カメレオンはかわれない

          Hollow’s Poolside

          「青白おばけの話知ってる?」 早川夢(ゆめ)翔(と)は塩素でごわついた髪の毛を乾かしていると、同じスイミングスクールに通うタケちゃんにそう問いかけられた。 「なにそれ、知らない」 「よくいるんだよ、俺たちの時間にさ、他のとこでずっと泳いだり歩いたりしてるのが」 他のスクール生も、その青白おばけについての話で盛り上がっているようだった。怖いだの、面白いだの、今度話しかけてみるなど声が聞こえてくる。 「へえ、でも普通の人なんでしょ?」 「それがさ、違うんだよ。顔色が凄く青白くて、

          Hollow’s Poolside

          Mistake

          東武東上線から見える景色は、乗り換え前の路線と打って変わって、田舎臭い緑が広がっていた。新田(にった)辻人(つじと)は、地方にある大学に向かっていた。その大学自体は学祭やら、入試説明会やらを謳ってイベントを催しているが、辻人にとっては高校から出された課題の消化のため他ならなかった。 「ねえ、まだ?」 向かいの席に座っている五、六歳くらいの女児が、母親に対して膨れた頬を見せている。車両にあまり人は乗っていないようだった。鮮明に親子の会話が耳に入る。 車掌のアナウンスが入る。辻人

          腫瘍

           目を覚ますと、見慣れない天井がそこにはあった。蛍光灯の光が眼に痛い。体を起こそうと、上半身に力を入れるが、上手く起き上がることが出来ない。再び寝台に身体を預けると、ずきずきと頭が痛む。枕元を見ると、ナースコールボタンがあったので、呼んでみることにした。聞きなれない音が室内に響く。しばらくして、看護師らしき足音がこの部屋に近づいてきた。 「よかった、お目覚めになりましたね」 白衣に身を包んだ短髪の女が、カルテを確認しながら微笑んだ。 「えっと、ここは?」 とりあえず、今の状況

          機械仕掛けの白雪姫

           時は二〇XX年、急速的なAIの発達、そして脳に対しての解明がより進んだ時代。様々な技術が開発され、人々の暮らしは変わっていった。しかしそれでもなお変わらないものがあった。それは男たちの「下心」である。  朽木という男は、S大に在籍している理系大学生であり脳科学を専攻。二年間の学生生活を終え、新たな世界へ踏み出そうと所謂飲みサークルというものに参加していた。しかしそれは新しい人間とのコミュニケーションを望んだ、建設的なものではなく、「もしかしたら女の子とあんなことやこんなこと

          機械仕掛けの白雪姫

          彼女は僕だけに妖しく微笑む

           桜が早くも散り始め、暖かな風が吹く。飯生(いなり)稔(ねん)二(じ)は着なれない不格好な制服に身を包み、今年度から通学することになる高校の入学式へと向かっていた。  しばらく歩いていると、ちらほらと同じ制服の人間が増えてきた。これからの生活に希望を抱いて目を輝かせている者や、SNSで知り合ったのだろうと考えられるグループがわいわいと盛り上がっていた。  学校に着くと、「四十八年度 湖白高校 入学式」と大きな看板が校門の前に置いてあった。家族連れの同学生たちが、写真を撮るため

          彼女は僕だけに妖しく微笑む

          あの時の自分に別れを告げて

          「ダメだダメ、もっと普通に演じろ!」  講師の怒号がスタジオに響く。須藤綾華はもう一度息を整え、用意された台本を読む。声だけで、その記号に色を付けようと努力する。 「まだダメだ! わざとらしい!」  つい出そうになるため息をグッと胸中に押し込み、代わりにその記号を吐き出す。これも綾華にとって生きがいの一つとして機能している、頑張りの一つだった。 「綾華さん、何回やるんだよ、私たちの指導もあるっていうのに」 「このグループだと最年長だしさ、あとが無いんだよ」  人工的な冷気で冷

          あの時の自分に別れを告げて

          エルピスを探して

          洗顔料を手に取り、泡立て、顔を洗う。ペーパータオルで水分を取ってから、保湿クリームを軽く伸ばす。続いて、無くなりかけの化粧下地を顔全体になじませる。最後にファンデーションを、導入化粧水を軽く含ませたメイクブラシで顔全体に塗る。  これが木崎(きざき)夏人(なつと)の仮面。汚されるための前準備。 「あら、リョウちゃん、今日はお早い出勤じゃない」  リョウちゃん、とここでの呼び名に応え、挨拶をする。涼(りょう)という名をこの人に名付けてもらってからもう二年半。ここはホストクラブの

          エルピスを探して

          Listen to the ball

          鬱陶しい砂埃が立ち込め、思わず目を細める。芥真子にとっては生憎、運動をするにはもってこいの気持ちのいい快晴であった。 「今日は、身障者体験の一環として皆さんにサッカーをやってもらいます」 ハキハキと喋る女性体育教師の橘さゆりは、健康的な褐色に焼けた四肢を大きく動かしながら、準備運動の音頭をとる。 「マコ、これも先生の評判や成績に関わるんだから、ちゃんとやった方がいいよ」 小学校からの幼馴染、荒川美奈がアキレス腱を伸ばしながら、こちらを振り向いた。彼女は名前順が近い事もあってか

          Listen to the ball

          独りの二人

          「まさかダブルブッキングするとはね。生まれてもう三十年になろうとしているけど、こんな体験初めてだよ。しかも今話題の天才高校生俳優と同室だなんてさ」  ぷはー、とホテルからお詫びとして渡されたそれを、柳田真はさながら運動後の水分補給の如く喉を鳴らしている。 「ここだと、ほら、十六歳からお酒飲めるんだからさ、君も飲んじゃいなよ」 手が痛くなる程キンキンに冷やされたジョッキを渡され、言われるがまま口に運ぶ。しゅわしゅわと音を立てながら、それは枢木蒼の口内を苦みで満たした。「旨い」な

          独りの二人

          慢性閉塞性心疾患

          早期発見のはずだった。カルテの通りに、先輩医師の言うとおりに、決められた手段をとれば、成功する手術。はずだったのだ。四十路手前の女性の身体を開いたとき、堂島が見たのは想定されていた病気の進行具合とはかけ離れていた。至急オペを中断し、本人に事態を説明する。女性は一瞬、驚いた顔をした後、すぐに母親の顔へもどった。 「私には娘がいますから。最期まであきらめずあの子と過ごします」 顔は笑っていた。いや、顔だけが笑っていた。何かを諦めたかのような、それでいて悟っているかのような。あの時

          慢性閉塞性心疾患