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両手に春の温もりをもつあなたへ
好きな人がいた。逞しい体躯に不釣り合いな猫背、褐色で肌理の細かい肌、塩素で縮れた毛先、血色の良いふっくらとした唇。
カーテンの隙間を縫った西陽が柔らかな色素のを目掛けて差し込むと、その瞳にも小さな夕暮れがやってくる。
ファイヤオパールの双眸を持つ男。
その両手には春のぬくもり。
あなたは唄うことを知らない人。自分を許すことを知らず、まともな愛情を与えられずに育った人。獣の体温で抱きしめる人。泣い
明日、君がいなきゃ困る
私が話した些細なことをよく覚えていた。ある雨の日に唄っていた歌、コンビニで買ったチョコレートの陳腐さへの不満など、私自身がとっくに忘れてしまったことを時々思い出し、楽しげに話した。驚く私に「だって僕は手帳を持ち歩く意味を持たないのだから」としたり顔で言いながら、友人との約束は忘れていたでしょう。
暖かいあなたが好きで、その抱擁が僅かなしこりを残した全ての悲しみを吹き飛ばした。あなたさえ側にいれば何