1月18日

長い沈黙の後、それでもどうしたって会いたいと零した私だけの人。

1月18日。極寒の中、閑散とした通りに一人佇んでいる。凍てつく寒さが容赦なく気管に滑り込んだ反射で飛び出した咳嗽音が住宅街の隙間を満たす。辺りに生き物の匂いはせず、無機質に違和感なく溶け込むこの肉体は既に死んでいるのかもしれない。

あなたを待っている。
女の子は体を冷やしたらいけない、暖かくして待っていなさいという宥めるようなお叱りに背き、くたびれたアスファルトを踏みしめここで待っている。それは早く、少しでも早くあなたを抱きしめてやりたいという殉情からきたものだった。
冷めた身体を迎え入れる車内は外気に比べると暖かすぎるほどだ。それでもいつも甘い香りのブランケットを身体に巻きつけていた。次期にその慣れ親しんだ温度を引き連れたライトが私を照らすだろう。だから平気。

天気予報では今夜は快晴だなんて言っていたくせに星は稀にしか見えなかった。しかしそれでも一向に構わなかった。 だって、あなたが知らない星が存在する意義なんてあるんだろうか。息を飲むほどの、心を奪うほどの美しさをもつものは、全てあなたのためだけにあればいいんだ。
ふと、湯船からだらしなく伸ばして私の背中を撫でる指先を思い出す。「だって痛そうだよ」と下着の跡を恐々と撫でる手付き。痛くないよと笑い飛ばすと叱られた子供のような表情で腕を引っ込めた。
暖かかったな、あなたの指先は私のものと違ってまるで生きているみたいだった。
途端に涙が溢れて、後から後から止まらなくて、鮮明な視界を次々に洗い落としながらダッフルコートをさらに黒く染める。重力に抗うことなく落ちる涙はなんて重たいんだろう。
まだ伝えたいことがあった。伝えるべきなのに伝えられなかったことも、上手く返せなかった言葉も沢山。あなたは僕の選択が君を痛め付けていたことを知っていると言ったね。酷い話だけれど僕自身もそんな君をみながら長い間苦しんでいた。僕の決意は君を傷つけるだけ、それでも側に居たい。僕にとっての女性は君だけで、だからお願い、僕を捨てないで。
軽快に鳴り響く着信音が、車体が大通りを抜けてコンビニのある十字路を曲がったことを知らせる。そろそろライトが向かいの小洒落たマンションを暗闇から浮き彫りにするだろう。今夜は何を話そうか。

あなたは泣くことを許してくれた人。泣き場所を与えてくれた人。私の人。私だけの人。
もう、さよならだよ。お仕事がんばって、無理はしないように。薄着で寝ちゃだめ、またお腹を壊しちゃうでしょ。コーラはそんなに飲まないで、糖尿病って怖いんだよ、爪先から腐っていくの。
いい夢をみて。どうか元気で。
大丈夫。きっとその子は、いい子だよ。