両手に春の温もりをもつあなたへ

好きな人がいた。逞しい体躯に不釣り合いな猫背、褐色で肌理の細かい肌、塩素で縮れた毛先、血色の良いふっくらとした唇。
カーテンの隙間を縫った西陽が柔らかな色素のを目掛けて差し込むと、その瞳にも小さな夕暮れがやってくる。
ファイヤオパールの双眸を持つ男。
その両手には春のぬくもり。

あなたは唄うことを知らない人。自分を許すことを知らず、まともな愛情を与えられずに育った人。獣の体温で抱きしめる人。泣いている目で何度も私を射す人。
それから...