1月

30cmもの積雪に浅いムートンブーツは酷く不釣り合いだ。体温で溶け出した雪が容赦無く爪先に噛み付く。皮の靴を履いてくればよかったと、ムートンブーツの側面がなるべく雪に触れないように彼がつけた足跡を踏みしめ歩く。靴底の面積も歩幅も大いに男を感じさせるものだ。
「雪なんて嫌い、こんな氷のようでさ」
振ってみせた手を、振り向いた彼が笑いながら掴む。
「別に冷たくたっていい、僕の手が暖かければ君の手が氷のようでも関係ない」
彼の口端から白い息が漏れる。空中に浮遊する塵を取り巻く水蒸気が、あなたの温もりをそう見せている。

降り止む気配のない柔らかな雪は、彼の睫毛に積もったかと思えば瞬きに押され優しくそれを撫でて落ちていく。落ちた雪はいずれ溶け出し、春になるだろう。心臓の端っこで、流動する季節に呑まれる苦痛を思い出す。冬が終われば春がくる。春が来れば、君は。