7月

10月下旬に早朝の冷え込みを恐れて引っ付け合う肌よりも、8月の中旬に冷房の設定温度を最下にして寒い寒いと身体を寄越すわざとらしさが好きだった。それでも眠りにつけば幼子のような寝汗でぐっしょりと寝巻きを湿らす癖に、決して不潔を感じさせないそれを時々疎ましく思った。
思い出すのはいつも、無防備に腹を見せ、柔らかい寝息をたてて眠る横顔だった。カーテンの隙間から忍び込む電灯の切れ端は丁度あなたの顔を射し、時折ピクリと震える睫毛を黄金色に縁取った。浮遊する塵を背景にしたそれはあまりにも幻想的で、泣きたくなるほどだった。それから、僕の腕は痺れることないんだよと差し出したその上腕のなめらかな肌触り。一晩中私の身体を捉えて放すことはなかった。腋窩に左耳を押し付けるようにすれば、肋骨に反響する鼓動が聞こえた。秒針と示し合わせたかのような律動で、強く脈を打つあなたの心臓。まだ新米の看護師であった時、タイマーに指を添えあなたの脈に触れ、声を揃えて数字を口にした遊びを覚えている?
ねぇ私、あなたのことを幸せにしたかった。幸せにしてやりたかった。あなたの胸に空いた穴を埋め、あなたに癒しを与えたかった。あなたのことが大好きだった、愛していた。なのにどうしてだめだったんだろうね。
私、何を間違えたんだろうね。