6月

何ヶ月か前、珍しく私たちは言い合いをした。何らかの取り決めの最中に、あなたへ無秩序を押し付けたことが発端であったと思う。稚拙な挑発を交わすことなく真正面から反発するなんてあなたらしくないし、私だってあの日はいつものような余裕はなかった。その頃はお互いに仕事関係で疲弊していたことが大きく影響していたのかもしれない。

仕掛けた手前、引き下がることはできないと半ばヤケクソで声を荒げていたが、あなたは何の前触れもなく私の手首を掴み持ち上げた。
「あなたの手はいつも冷たいね」
そう言うと優しく微笑み、指先を丁寧に撫でた。不意をつかれ狼狽える仕草はひた隠しに、今更どう切り替えせばいいのか分からず、不貞腐れた顔をしてあなたを振り返りもしないで
「冷え症だから」
と答えると、
「違うよ、きっと心が暖かいからだ」
と微笑んだ。拍子抜けして、私もつられて微笑んだ。
あなたはいつもそうだった。