【小説】古い話(閣下の章31)
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からの続きです。
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現状打破の目処が全く立たない。
そのアリオールの胸中を何度も、Mとした話が行ったり来たりした。
―自分は大学には行けないんじゃないかって言われてさ……
二人きりになった更衣室で、手の指にある、訓練で失敗した時の古傷をアリオールが見せた時に、急にそうMが呟いた。
士官学校に来ているということは、実際にそうだったのかもしれない。
「しかし、君は操砲の技術やら水上戦やら優秀だそうじゃないか」
本心から、アリオールは言葉を掛けたが、Mは何だか憮然としていた。いつものことではあるのだが、急に表情がなくなり無言になる。
何と戦っているのか。研修で着たセーラー服が似合い、商科の本を時々、読んでいるのを知っている。
「……行く気になれば大学は、いつでも行けるよ」
立ち去る間際にそう添えたが、どう思っているのだか、Mはただ石像のように固く黙って立っていた。
ある晴れた土曜日、気晴らしに電車で出かけた。学習に使う本を探すという名目でだ。
しかし、元々名目でしかないからか、なかなかピンと来る書籍が無い。はらはらとめくっては、棚に戻すのを繰り返す内、関係のない歴史系の書物へ目移りしてしまった。
だめだ、だめだと思いながらも、探している参考書よりも熱心に読みだした。中世の騎士の逸話。全くのフィクションではなく、ある程度、本当にあったことのようだ。
一文に目が止まった。ある騎士は、結構な年齢になって……三十歳を越えても、若手として扱われていたらしい。腕は立つし、戦果も挙げていたのだが。結婚もしようとしないので主君が面倒を見てあげたとか。
そんな知名度の低い人物に関する、何でもないお話に目を通して、その本を置いた。
何も変わらないまま夏を迎えた。時折、怒りを露わにして、壁や机を殴りつけても、解ってはもらえなかった。彼自身、激しい怒りがどこから来るのか分からなかった。
それらを思い出しながらかいつまんで話して、ふと、ソファで寝ている娘の顔を確かめるように見た。
予想に反して、うとうととしているけれども、起きていた。
「リュラビー……」
履歴書にあった名前で呼びかけた。ぼんやりとした目に少し反応があった。
これからもう少し、話を続けよう。子守唄にはなりようもないが。聴いていなくてもいい。