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下斗米伸夫『ソビエト連邦史』

下斗米伸夫『ソビエト連邦史』

概要スターリン時代に外相を務めたモロトフを軸に据えつつ、ソ連の成立から崩壊までを描いた概説書。

要約レーニンが無神論者であり、フルシチョフ時代に苛烈な宗教弾圧が行われたことから、ソ連と言えば無宗教のイメージが強い。ところが、ボリシェヴィキ革命で重要な役割を果たしたのは17世紀にロシア正教から分派した「古儀式派」と呼ばれる会派であった。農村に出現した「ソヴィエト」は古儀式派の集会としての性格がある

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【考察】『ハーモニー』伊藤計劃

胸の膨らみと世界のあり方についての思春期女子のよくある悩みを聞きながら今日も酒がうまい。

【以外ネタバレを含む】
"Ghost in the machine"とは、デカルトの人間観を揶揄したギルバート・ライルの言葉だ。「心は身体の中にありながら身体を支配する」とする機械論的な心身二元論に対して、「そのような考え方では、我々の自意識について『機械の中に幽霊が住んでいる』としなければ説明がつかない」

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【要約・感想】『歴史の終わり』フランシス・フクヤマ

1989年に『ナショナル・インタレスト』誌に掲載された”The end of history?”という論文をもとにした著作。リベラル・デモクラシーは人類がたどり着いた政治思想・政治制度の最終形態であり、「歴史の終わり」が訪れたと主張する。

【内容】
① 近代科学の導入と経済の自由化は歴史的必然である
② 政治的民主化は経済的自由化の必然的帰結ではない
③ 歴史のプロセスは「承認を求める闘争」であ

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【考察】宇佐美りん『推し、燃ゆ』

『推し、燃ゆ』宇佐美りん

-聞き入れる必要のあることと、身を守るために逃避していいことの取捨選択が、まるでできなくなっている。

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推しが燃える話。第164回芥川賞受賞。21歳での受賞は史上3番目の若さらしい。
構成も描写も適度に計算されている印象。新海誠よりはわざとらしくなく、浅井リョウよりは凝ってる。主人公の属性に「あーわかる」とはならないものの、じわじわとボディーブロー

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