サイコパス社長に出会い、逃げるまでの100日間の話【最終章】
第一章〜最終章まで一覧⇒ サイコパス社長に出会い、逃げるまでの100日間の話
最終計画
この仕事をはじめて三か月と少しの月日が経った。
初めて2~3日の休日らしき日ができた。
逃げるならここしかない。
私の家からサイコパスの自宅兼事務所まで、車では1時間ほどかかる距離があった。
仕事をしていた期間中に、サイコパスはパソコンなどの機器を連絡もなく私と友達の家宛てに頻繁に郵送してきていた。
他の社員にはそういった機器は用意していなかったので、これらの借りや手間を作って、逃げられないように仕向けていたのかもしれない。
逆にこれらを返してしまえば辞められることを思いついたのだ。
どんどん梱包して郵送した。
私の部屋はサイコパスからの品で溢れ返り、鬱蒼とした空間になっていた。
通りでここ数か月間は部屋が狭くなっていたはずだ。
数か月ぶりに部屋が広く綺麗になった。
片付けていた品の中に、郵送の過程で破損すると責任が取れない品物が残ってしまった。
「...これは手渡ししなければならない...」と思った。
サイコパス宛てのメールには
電話をするということに絶えられず、会話ができなくなってしまいました。精神的に仕事ができる状態ではありません。お借りしていた品を郵送させていただきました。このような辞め方になってしまい申し訳ございませんでした。
と送った。
残りの品を返しに行く際には、友達、家族、確か社員の男性も車を出そうかと言ってくれたと思う。
しかし、サイコパスはどんな態度に出るかわからない。
まだ知らないだけで、もしかしたら暴力を振るうくらいのことはするかもしれない。万が一ついてきてくれた人に危害を加えてはならないからと、心遣いに礼を言い、断りのメールを返信した。
サイコパスと残りの品を返す約束をメールで交わした。
当日は、母親が用事があったのも兼ねてサイコパスに会うのとは別の駅で待っていてくれることになった。
話は手短に、穏便に済ませて逃げなければならない。
サイコパスから逃げる
自宅兼事務所の最寄駅。
久しぶりにサイコパスの顔を見た。
サイコパスの目はおかしい。
常に瞳孔が開いたような目をしていて、黒目に光が差さない。瞬きをしている気配もない。
逃げないよう車内で私は腕を掴まれた。
ものすごい力だ。痛い。
「返しに来てくれたんだね、いい子だね。今から一緒にごはんに行くでしょ?」
「行きません。母親が別の駅で待っています」
「はぁ!?何それどうして行けないの!?僕のことキライなの?」
「嫌いです。手を放してくれませんか」
「じゃあ一回だけ、また会ってくれるよね?」
「...」
「何か答えろよ!!母親が待っているっていうのも嘘なんだろ!!どうして僕にそんな嘘つくんだよ!!」
「いいえ、本当に待っています。食事は...また別の日にして下さい」
ちょっと気が緩んだ隙に今だ!と思い掴まれた腕を思いっきり振りほどき走って逃げた。
恐ろしかった。
ほんの三か月ほどの出来事だったとは思えないほど、色々なことがあった。本当にこわかった。
ツラかった。
別の日にと言わなければ最後まで穏便に済ませられない自分の会話力の無さには、最後まで情けないと思った。
サイコパスからはそれからも何度も連絡が入る。
一切電話に出ないようにしているが、連絡が入る度にお腹を壊す自分にも呆れる。
サイコパスが私にぶつけていたストレスを、残る社員が今頃代わりに背負っているのではないかと思うと苦しくなる。
そのことについては友達が辞めた時に友達も同じことを言っていた。
今後、また新たに別のサイコパスに出会ってしまったとしたら
その時は初期の段階で気づき逃げられるだろうか。