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10秒で読める小説

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100作書けたので、次の目標は150作!ってことでボチボチ書いていきます。
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#掌編小説

【10秒で読める小説】懐かしい味

【10秒で読める小説】懐かしい味

僕は日本で人気カレー店を営む、インド人だ。

「ここのカレーは本場の味なのに、なぜか懐かしいんだよな」
客はみな、不思議そうに言う。

「アリガトウ、ゴユックリ」
と笑顔で言い、僕は厨房に戻った。

日本人である僕の妻が、仕込み用の鍋をかき混ぜながら呟く。
「肉じゃがをリメイクしたカレーが、こんなに流行るとはね」

【10秒で読める小説】もうすぐ入学式

【10秒で読める小説】もうすぐ入学式

明け方に見たのは眩しい夢だった。
桜の花びらを掴もうと、セーラー服の少女が、仔ウサギのように跳ね回っている。

目が醒めてから、スマホのカレンダーを見て腑に落ちた。

11年前、臨月だった私は、避難所での不安とストレスに押し潰され、流産した。

あの子、天国でもうすぐ中学生になるのね。

【10秒で読める小説】熱吸いシート

【10秒で読める小説】熱吸いシート

3歳の息子が高熱を出した。
「よくある事だろ、茶を入れてくれ」
ダンナはそう言って気に留めないが、苦しがる息子が可哀想だ。
私は新発売の熱吸いシートを息子のおでこに貼った。

しばらくするとシートが熱々になった。
剥がして、何気なくボウルの水に浸すと、じゅっと音がして湯になった。

「あなた。お茶を入れたわ」

おかげで息子の熱は下がった。
ダンナは、布団でうんうん唸ってるけど。

【10秒で読める小説】君の瞳の十七条憲

【10秒で読める小説】君の瞳の十七条憲

店長が紙を広げた。
「妹子、十七条の憲法ができた」
「憲法、ですか?」
「嘘だよ、店の指針だ。見て」

近寄った僕の顔を、店長が覗き込む。とっさに僕は俯く。
「顔を上げて。君の瞳に映った文字を読みたいんだ」
「文字なんて映ってないでしょ」

「いや。はっきり書いてあるよ。──俺が好きだって」

【10秒で読める小説】進化

【10秒で読める小説】進化

ジャングルジムで類人猿が大回転をしていた。
驚いて見ていると
「すげーだろ」と、猿。
「わ、猿が喋った」
「俺は運動神経の進化した人間だ。皮膚を守るため体毛も増やしたから、服も不要だ」
言いながら、生えてた草をむしって食べた。

「食物に火を通す必要もない──お前らは、進化してるつもりで退化してたんだよ」

【10秒で読める小説】君にあげるよ、冠位十二階

【10秒で読める小説】君にあげるよ、冠位十二階

「妹子」
呼び掛けられて振り向くと、十人の注文も一度に聞き取れる鬼才の聖徳店長だった。
バイトみんなに慕われているし、僕も憧れている。

「店長、どうかしまし…」

店長は言葉を待たず、おもむろに僕の頭にキャップを被せた。
「何ですか、もう」
キャップを取ってその深い紫色を見た僕は、息を飲んだ。
「まさか、僕が大徳? 店長…」
「太子でいい」

店長の頬に赤みが差す。

「俺の一番になってくれ」

【10秒で読める小説】お雛様の呟き

【10秒で読める小説】お雛様の呟き

もう片すん?三月に入って慌てて出したってのに。婚期が遅れるいう、迷信を信じてるんか?

違うて?

いんすたばえ?

そんなもんのためにワテらを飾り付けたんか!

キーッ!

ん? 「いいね」言うてもらえた?

当たり前や。

百人に言うてもらえた?

わ、悪うないな。けど来年は千人に言うてもらい。

せやないと承知せえへんで😡

【10秒で読める小説】コインロッカーの中には

【10秒で読める小説】コインロッカーの中には

コインロッカーを開けたら、中に銀色の顔が浮かんでいた。

「待ってたよ」

顔が言った。
急いで扉を閉めようとしたが、体に電気が走った。

気がつくと真っ暗な場所にいた。
手足の感覚はない。
そのまま長い間そこにいた。

ある時、眩い光とともに巨大な顔がのぞきこんだ。僕は言った。

「待ってたよ」

【10秒で読める小説】タコパのお誘い

【10秒で読める小説】タコパのお誘い

「彼ね、美人をみたら反射的に手を出しちゃうの。私が傷つくって考える前に」
香奈は溜息まじりに言った。
「タコみたい」
私は思わず変な感想を言う。
「タコ?」
「腕に脳があって、頭で考えるより先に捕獲するのよ」

翌日、香奈からLINEが来た。
「タコパするから食べにこない?」
「例の彼も一緒に?」
「ふふっ。手を切ったわ」

私は背筋が凍った。
タコってまさか…。