「これが、今のライフスタイル」
卓郎とは、十年来の友人。
伸之は今日も、
暇な一日を、どうやって過ごそうかと、あれこれ考えていた。
「よう!」 「今日は、何をしようか?」
電話口で、伸之は卓郎に向かって話し掛ける。
「また、公園で、キャッチボールでもする?!」
…と言いながらも、パジャマのまま、1日を過ごそうと考えていた。
何もしないで、1日をだらだらと過ごすこと。
誰にも文句を言われない、だから幸せを感じられるのだろうか。
逆に言うと、お金を使わないから、気にならないのだろうか。
伸之も卓郎も、アルバイトも不定期で、ニートのような生活を送っていた。
学生時代の話を一日中して、部屋にずっと一緒にいることもあった。
外で遊ぶことはあるが、街中に出掛けることはしない。
人酔いするタイプ、人が多いのが、二人とも苦手だった。
コミュ障でもないのだが、知らない人と仲良くなるのに時間が掛かる。
会話が続かないこともあって、どうしても好きな漫画やアニメの話になり、
相手に興味がないと、愛想を尽かされることが多かった。
当然ながら、二人とも恋人はいない。
敢えて自分から、出会いを求めようともしていなかった。
取り敢えず、近くの公園で二人は会うことにした。
そこで、何をするのかを決めることにした。
今日は晴れていて、暖かな季節を感じられる、長閑な昼下がり。
伸之は、パジャマを脱ごうとして、異変に気付いた。
脱ごうとして、ボタンに指を掛けると、引っ掛かりが全くない。
そう、それは、肌に張り付いたボタンの柄のようなものだった。
「あれ?!」 「どうしたのだろう?!」
伸之は、独り言を呟きながら、必死でパジャマを、脱ごうとしていた。
今度は、パンツを脱ごうとして、腰ゴムあたりに手を掛けてみた。
「あれ?!」
またしても、指の引っ掛かりが全く感じられない。
脱げないと、脱がないと、気持ちばかり焦ってしまう。
もう一度、ボタンのようなものに、触れてみる。
全く凹凸がなく、何も感じない、逆に、こそばゆい感じがした。
「あれ?!」
伸之は、急いで、鏡のある洗面台の前に、向かっていった。
するとそこには、パジャマを着た、パジャマのような柄を纏った、
伸之の姿が鏡に、映し出されていた。
伸之は、全身を、上から下まで食い入るように眺めて、もう一度だけ、
パジャマを脱ごうと試みてみた。
めちゃくちゃ、こそばゆい。裸の自分の体を触っている感覚だった。
「あれ?!」 「もう、どうなっているのだ!?」
卓郎を待たせる訳にはいかないと思い、伸之は慌てて、
パジャマのような柄の上から、ジーパンと長袖のシャツを着て、
出掛けることにした。
「よう!」 「卓郎!」 「よう!」 「伸之!」
公園のベンチに並んで腰掛けて、何をしようかと話をし始めた。
だが、いつものように話が盛り上がらなくて、少しイライラしていた。
伸之は溜まりかねて、正直に今起こっていることを、話し始めた。
「実は…」 「えっ!?」 「そうなんだ!?」
話し始めてから、5分も経たないうちに、卓郎は話を遮って話し始めた。
「実は…」 「俺も、同じことが起きている」
どうやら卓郎も、パジャマが、脱げなかったらしい。
二人とも、パジャマのような柄の上から、ジーパンとシャツを着て、
公園まで出てきたのだった。
二人は、そのまま歩きながら、伸之の家まで向かっていった。
その時、公園の方から野球のボールが、飛んできた。
避けようとして、シャツの胸ポケットの入れていた携帯を落ちない
ように押さえながら、身を捩って避けた。
「あれ??」 「あれ??」 「あれれ??」
卓郎は、途中で止まり、ボタンが指に引っ掛からないことに気付いた。
「どうした??」 「どうしたの??」
伸之は、卓郎の異変に気付き、声を掛けた。
卓郎の異変を気付くと同時に、伸之もシャツのボタンに指を掛けてみた。
すると、全く凹凸がないことに気付いた。
二人は、お互いに顔を見合わせながら、苦笑いになりながらも、
肩を叩き合いながら、また歩き始めた。
いつか、脱げる日が来ることを願って、二人とも、
今起きていることを、全て、受け入れることにした。
どことなく、笑顔が固いような気もしたが、気のせいのようにも、
感じられた。
「これが、今のライフスタイル」だと、
半ば、強制的に信じ込ませることにする、純な二人だった。
※この物語は、フィクションです。
※登場する人物は、架空の存在です。
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