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「夢中力」が人生を変える!フロー体験の謎に迫る

夢中になる。

みなさんは、我を忘れるほど夢中になったことありますか?

私は、その昔、全国の同年代の同志と同じく『少年ジャンプ』を表紙から舐めるように読み込んでいたわけですが、ただ読んでいたと思えないんです。

私にとって『ジャンプ』を読むことは、映画を見るのと同じレベルのものでした。つまり、映像化されていないにもかかわらず、本から(自分の脳が勝手に作った)音が聞こえて、まるで映画を見ているかのようにページをめくっていました。

そして「読んでいる」という行為を忘れ、漫画の世界に没頭しすぎて降りるべき駅を通り越してしまうということが何度もありました。

東京に出てきてからは本に夢中になりすぎて、山手線1周とかよくやっていましたね。

夢中になるとは、行っている行為そのものにも注意を払わなくなる状態のことをいいます。

今回はこの「夢中になる」を研究し、世界的にちょっとしたブームを引き起こしたチクセントミハイ先生のフロー理論について学んでみたいと思います。

楽しみ(enjoyment)と快楽(pleasure)の違い

フロー理論を理解する前に、まず「楽しみ」と「快楽」の違いを知っておく必要があります。

え、同じじゃないの?

って思われるかもしれません。でも、実はこの2つ、フロー理論を理解する上で全然違う意味を持っています。

まず、快楽(pleasure)について。快楽は、テレビを見たりスマホゲームをしたりする時に感じる受け身で・一時的な気持ちよさのことを意味します。

一方、楽しみ(enjoyment)は、何かに夢中になって取り組む時に感じる充実感や達成感のことを指します。例えば、難しいパズルを解いたり、スポーツで自己ベストを更新したりした時の「やった!」という感覚に近いです。

ここら辺の研究は面白く、MITのRosalind Picard先生がやった実験とも関連しています。もし興味がございましたら私の講演を・・・

で、その快楽と楽しみの区別ですが、チクセントミハイは次の4つの点からも考察しています。

  • 注意力: 快楽は注意力をほとんど必要としないが、楽しみは相当量の注意力の投資を必要とする。

  • 成長と複雑性: 快楽は自己の成長をもたらさないが、楽しみは自己をより複雑にする。

  • 持続性: 快楽は一時的で、すぐに飽和するが、楽しみはより長続きし、繰り返し追求される傾向がある。

  • 意識への影響: 快楽は既存の秩序を維持するだけだが、楽しみは意識に新しい秩序をもたらす。

これら4つの視点をまとめると、あるもの・ことにモテる注意力を全振りすることにより、複雑な感覚が生まれ、それが新しい意識の秩序を構成し、持続的な集中となり、自己の成長に繋がるってわけです。

ということで、子どもであれ大人であれ、学び成長するためには、最初の「楽しみ(enjoyment)」の要素がとても大切なようです。

そして子どもの頃から何かに夢中になる力ってめちゃ大事なんですよね。

鉄道でも昆虫でもレゴでもロボットでも、なんでもいいんです。

何かに無我無夢中になっていると結構、周りから誤解されたり冷ややかにみられてありすることありますよね。

でも、気にしない〜

楽しみを通じて子どもは新しいスキルを身につけ、自信を育み、夢中になる練習をしているんですからね。

フロー体験とは何か

さて、今回のテーマである「フロー体験」について話をすすめましょう。

これは、楽しみ(enjoyment)の完全体です。ラスボス感ありますね。

フローの話を進める前に、フロー体験の対極、つまり反対にも触れときますね。

チクセントミハイは、注意力が散漫な状態を

心理的エントロピー(psychic entropy)(激訳:こころの乱れ)

と呼びました。

ラーメン二郎本店の自販機の上に貼ってある社訓を思い出してください。

味の乱れは心の乱れ、心の乱れは家庭の乱れ、家庭の乱れは社会の乱れ、社会の乱れは国の乱れ、国の乱れは宇宙の乱れ

注)つまりラーメンの味がぶれているとフローにならないという・・・(違う
だからジロリアンはおのおのが思う「味のブレが小さいマイ店舗」を持っています。

心理的エントロピーとは意識の中に無秩序や混乱が生じている状態を指します。持てる注意力フルコミットを妨げる何かが生じているのです。

もしかしたら、嫌な思い出だったり、不快な環境だったり、そもそも興味のない対象だったり・・・注意力フルコミットを妨害する要因は身の回りに溢れています。

そう、チクセントミハイは、注意力という「心的エネルギー」の最適な流れをフローと定義しているのです。

フロー体験とは、何かに深く没頭して、時間の感覚も自意識も忘れてしまうような状態のことです。よく、プロのアスリートが「無我夢中」や「ゾーンに入る」という言葉を聞いたことがあるかもしれません。まさにその状態です。

これってべつにプロじゃなくてもいいんです。みなさんの生活を思い返してみてください。そこらじゅうに溢れるフロー体験。

プロジェクトに夢中になったり、講義に夢中になったりして「あっという間に時間が過ぎた!」なんて経験、ありませんか?

子どもなんて結構しょっちゅうじゃないですか?例えば、積み木で夢中になって遊んでいる時、好きな本を読みふけっている時、絵を集中して描いている時など。この状態の時、子どもは最も効果的に学び、成長しているんです。

フロー体験は、単なる快楽とは違います。

挑戦と能力のバランスが取れた時に起こる、より深い満足感を伴う経験です。この経験を通じて、私たちは新しいスキルを身につけ、自己成長を遂げていくのです。

はい、4と5の部分を具体例を盛り込んで書いてみました:

子どもはフロー体験の達人

好奇心旺盛な子どもたちは、自然と自分にとって「ちょうどいい難しさ」の課題を見つけ出す天才です。

例えば、積み木。最初は2つ積み上げるのがやっとでしたが、少しずつ挑戦して3つ、4つと積めるようになります。そして、ついに塔を作れるようになった時、大人がげき忙しいにも関わらず、見て見て攻撃をしてきます。これぞまさにフロー。

学校などの教育現場でフロー体験はどうでしょうか?

実は、フロー体験を発生させるためのポイントが2つあります。

まず大切なのは、一人ひとりの子どもの能力に合わせた課題を提供することです。例えば、算数の授業で掛け算を教えるとき、すべての子どもに同じ問題を与えるのではなく、できる子には少し難しい問題、苦手な子にはヒント付きの問題を用意するなどの工夫が考えられます。結構当たり前だけど、むずかしい。

2つ目。即時フィードバックの重要性。例えば、小学校の作文の授業で、先生がその場で作文を読んでコメントを返す。「ここの表現がとても良いね」「ここをもう少し詳しく書いてみたら?」といった具体的なフィードバックが、子どもの集中力と向上心を高めます。

リピートします。即時で具体的なフィードバックがポイントです。

しかし、これら2つ、実はICTテクノロジーを使うと可能となります。
この歴史的な瞬間の写真をみてください。自分が設定した課題をクリアし換気する小学生。(ELSAを使って高得点を叩き出した関西大初等部の子です)

https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000020.000057163.html

さらに付け加えるならば、成長する内発的動機づけを促進することも重要です。ICTやAIだけでは学習者の「やる気」を持続させることはできません。

ここで先生登場。

例えば、理科の実験をしているとしましょう。「知っている」「知ってない」のような知識詰め込みは、AIが得意とする分野です。しかし、先生というコーチが「こうなる」と教えるのではなく、「どうなると思う?」と子どもたちに予想させ、自ら仮説を立てるサポートをします。さらには、探究の伴走までします。このICT/AIとリアルな先生(コーチ)との組み合わせにより、学習者の内的動機づけが持続するんです。

このように、教育現場でも会社でもフロー体験を意識した取り組みが可能です。

ポイントは、

1 適切な課題設計・ゴール設計
2 即時・具体的なフィードバック
3 成長するための内的動機を持続させるコーチの存在

という3つなんです。

個別最適化という言葉が先走り、AIやICTがあれば先生いらねー、みたいな感じになっていますが、それは大きな誤解です。

正確には先生の役割が変わってくる、というのが正しい理解でしょう。

子どもは生まれながらフローの達人ですが、それをより強度の高いものとしていくには周りの(親・先生など)適切な介入が必要なのです。

幸せとは

昨今、well-beingの重要性が叫ばれています。OECDの報告でもwell-beingへの取り組みにスポットライトあたっていましたよね。

さて、結局のところ、フローに入る技を身につけることによって何が起こるのでしょうか。というか、何の意味があるのでしょうか。

いきなり話が大きくなりますが、チクセントミハイは、人生に意味を見出すことが最終的なフロー体験であり、それによって生活全体が一つの統合されたフロー活動になると主張しています。

なんのこっちゃとなりますが、ざっくりまとめると、個人の人生の目標、これがやりたいんじゃー、というものに夢中になっていると、自分の人生の使命や「生きがい」を見つけることができる(ま、見つけたからやりがいがあるのかもしれませんが・・・)ということです。

ちょっとカッコつけちゃいますけど、私の場合、「教育」ですね。
これは「教える」という意味ではなく、むしろeducationに近く、「学習者のポテンシャルを最大限に引き出す」お手伝いをしたいというものです。学校現場であれ、いまの外資IT会社であれ、「教育」に関わっている限り、めちゃ幸せを感じますね。

ちなみに、チクセントミハイ先生はそもそもなんで「フロー体験からの幸せ」なんて言っているのでしょうか。実は、チクセントミハイ先生の生い立ちが影響しているんです。戦乱時のイタリアに生まれ、幼年時代に欧州で悲惨な戦争を体験した後、心理学に出会い「幸せの根本とは何か?」と考え続けたのです。

皆さんはいかがでしょうか。

人生を賭けて夢中になりたいこと、ありますか?

今すぐにではなくても、何かに夢中になる幸せ、見つけられたらいいですね。

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cover photo :https://www.ted.com/speakers/mihaly_csikszentmihalyi

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